8-10 地質環境の変遷を考慮してシステムの性能を評価する

−隆起速度と侵食速度の違いに着目した核種移行解析−

図8-23 隆起速度と侵食速度の違いに着目した解析ケース
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図8-23 隆起速度と侵食速度の違いに着目した解析ケース

・隆起と侵食の速度が同じ場合(ケース1, 4)では、初期の位置(平野の深部P-1)に対して、地形は変わらず処分場の位置が平野の浅部(P-2)へ変化します。
・隆起が侵食よりも大きい場合(ケース2, 3)では、初期の位置(平野の深部P-1)に対して、地表面の隆起で地形が変化し処分場の位置が丘陵の浅部(H-2)へ変化します。
・隆起と侵食の速度については、日本全国を対象とした最近10万年間の隆起の傾向を踏まえ、保守的な隆起速度である1 mm/年を基準として感度解析的に設定しました。

 

図8-24 母岩からの核種移行率の時間変化の例(Cs-135)

図8-24 母岩からの核種移行率の時間変化の例(Cs-135)

各ケースでは、最大値並びにその発生時刻が異なりました。これは、隆起速度と侵食速度の違いによって、処分場直上の地形の変化や深度の変化が生じる時期が異なり、それに伴い処分場を取り巻く地質環境条件(特に流速)及び核種移行パラメータが変化する程度や変化の時期が異なるためです。

 


我が国の地質環境の特徴の一つとして、変動帯に位置するため、安定大陸と比べて活発な天然現象(火山・火成活動,地震・断層活動,隆起等)が生じることがあります。これらのうち広域的で緩慢に進行する隆起・侵食については、将来10万年を超えるような超長期を対象とする場合、地形や深度の変化が生じ、それらが地下水流動や地下水水質に影響を及ぼす可能性があります。このため、本研究では、隆起・侵食に起因する地質環境条件の変遷を考慮して地層処分システムの性能を評価するための方法論を開発しました。

従来は、隆起速度と侵食速度が等しいと仮定して、隆起した部分が全て侵食されることにより処分場の深度が減少し、処分場が地表付近の酸化帯領域に位置するようになった段階で地下水流動や地下水水質が大きく変化することを想定していました。しかしながら、実際には、褶曲構造や断層の存在等により、場所により隆起速度と侵食速度が異なることも十分に考えられます。そのような現実的な状況を考慮して、地層処分システムの性能へ及ぼす影響を分析できるようにしておくことが必要です。

そこで、本研究ではまず、既往の文献情報に基づき仮想的な堆積岩分布域を設定し、地形を丘陵,平野,沿岸に、 深度方向を100 m以浅と以深にそれぞれ区分(ブロック分け)しました(図8-23)。その上で、我が国では山地を除けば隆起速度が侵食速度より大きい傾向があることを踏まえ、処分場直上の地形の変化と深度の変化の組合せに着目した四つの解析ケースを設定しました。次に、各ブロックに対して、地質環境条件(浅部で速く深部で遅い流速,丘陵で速く平野で遅い流速等)及び核種移行に関するパラメータ(安全評価の支配核種の一つであるCs-135の岩盤への分配係数等)を設定しました。このような設定のもとに、各解析ケース(図8-23の)に応じて、地質環境条件と核種移行パラメータを時間変化させた核種移行解析を実施しました。

解析の結果、Cs-135の例では流速の変化が大きく影響するなど、本研究で着目した隆起速度と侵食速度の違いは、地質環境条件の変化を通じて、地層処分システムの性能に大きな影響を及ぼすことが分かりました(図8-24)。この方法論の開発により、これまで簡略的な議論に留まっていた隆起・侵食の影響をより現象に即して定量的に評価できるようになりました。