8-8 地下の断層帯亀裂の透水性を予測する

−断層帯の水理地質学的調査技術の開発−

図8-20 検討した六つの地域
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図8-20 検討した六つの地域

検討した六つの地域の場所と関連するプレートの名称や運動方向を示します。

 

図8-21 断層帯亀裂の最大透水量係数とダクティリティインデックス(DI)の関係
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図8-21 断層帯亀裂の最大透水量係数とダクティリティインデックス(DI)の関係

実線は累乗近似曲線で、関係式は図中に示すとおりです。破線はその標準誤差を示します(log T で±1.25)。灰色の横実線は誤差範囲です。

 


岩盤中に存在する断層帯の透水性を限られたデータから時空間的に予測することは高レベル放射性廃棄物の地層処分における重要な課題の一つです。本研究では、その予測手法の構築の一環として、断層帯の透水性に関連して国内外で得られている様々な試験データをコンパイルし、透水性の予測にかかわる新たな関係を見いだしました。

国内外の異なる地質環境にある六つの地域(幌延(日本:泥岩),ウェレンベルグ(スイス:泥岩),セラフィールド(英国:凝灰岩),フォルスマルク(スウェーデン:結晶質岩),オルキルオト(フィンランド:結晶質岩),スイス北部(結晶質岩))(図8-20)で得られたボーリングデータをコンパイルした結果、地下の断層帯内に存在する亀裂(断層帯亀裂)のうち、最も透水性の高い亀裂の透水性(最大透水量係数)がダクティリティインデックス(DI)に強く規制されることが明らかになりました(図8-21)。DIとは本研究によって新たに定義した指標であり、岩盤にかかる平均有効応力をその健岩部の引張強度で除した値で定義されます。ここで平均有効応力とは岩石に実際にかかる平均的な負荷応力,引張強度は岩石の引っ張り破壊に対する強度を意味します。DIは地質図や地質構造発達史などの情報より、一定の精度で時空間的に予測することが可能なパラメータです。

今回得られた結果は、ある岩盤中に存在する断層帯亀裂の最大透水量係数がDIと図8-21に示す関係式を用いて時空間的に予測できることを意味します。本研究で検討した断層はいずれも過去に多くの断層運動を経験しています。これはすなわち、断層運動が生じても断層帯亀裂の最大透水量係数が上記の関係性を超えて不可逆的に上昇しないことも意味します。

今回得られた知見は地下における断層の透水性の時空間的な予測を可能にするものであり、地層処分をはじめとする様々な地球科学的・地球工学的課題に対して有益な情報をもたらすと期待できます。幌延深地層研究所では今後、「地殻変動に対する堆積岩の緩衝能力の検証」として、地下施設を利用した原位置試験(断層帯を対象とした擾乱試験)や室内試験を行い、本結果についてさらなる検討を加えていく予定です。