9-1 三極管ジャイロトロンにおける高速出力変調法の開発

−ITER電子サイクロトロン共鳴加熱・電流駆動システム要求性能を達成−

図9-2 ダブル・アノードスイッチによる高速変調運転の(a)電磁波出力時と(b)停止時における回路状態

図9-2 ダブル・アノードスイッチによる高速変調運転の(a)電磁波出力時と(b)停止時における回路状態

三極管ジャイロトロンの特性により、カソードとアノードが短絡するとビーム電流は停止し、開放されると電磁波が出力されます。

 

図9-3 ダブル・アノードスイッチの効果

図9-3 ダブル・アノードスイッチの効果

引き出し電圧の立ち上げを高速化することで、不要な周波数の電磁波の励起を最小限に抑えることが可能となりました。

 

図9-4 出力変調幅100%の5 kHz高速出力変調運転を実証

図9-4 出力変調幅100%の5 kHz高速出力変調運転を実証

電源変調法の場合と違い、発振停止時にビーム電流を完全に遮断することができるため、コレクターへの熱負荷がなくなりました。

 


国際熱核融合実験炉(ITER)では、20 MWの170 GHz電磁波により核燃焼プラズマの維持と安定化を行います。原子力機構では、ITER要求性能である発振出力1 MWと電力効率50%以上を同時に実現する連続運転ジャイロトロンの開発に成功しています。しかし、ITERプラズマでは新古典テアリングモード(NTM)が励起すると磁気島が発生してプラズマ圧力を低下させる問題があります。NTMを効果的に抑制するためにはプラズマ中を回転する磁気島内のみに同期して電磁波を入射する必要があり、5 kHzの高速出力変調運転が要求されています。これまで高速出力変調は、電源出力を変調する手法が考えられていました。大電流の流れる主電源側で5 kHzもの高速変調を行うのは非常に難しいため、電流の小さなボディ電源側で変調を行い、発振条件をずらすことで出力変調する手法となります。発振条件をずらすということは発振効率が大幅に低下するため、発振に寄与しない大きなエネルギーの電子ビームによりコレクター部の熱負荷が増大するため、5 kHzでは出力変調幅は50%までが限界と考えられていました。

そこで、原子力機構では電源出力の変調が不要な新しいジャイロトロンの高速出力変調法を開発しました。原子力機構が開発したジャイロトロンは、電子銃部のカソードとアノード間電圧で電子を引き出し、カソードと共振器部のボディ間電圧で加速し、ボディと接地電位のコレクター間電圧で減速させてエネルギーの一部を回収するエネルギー回収型三極管ジャイロトロンです。三極管ジャイロトロンはカソードとアノードの短絡のみで電子の引き出しが停止する特性を活かして、1 μsで開閉可能なスイッチを開発し、カソードとアノード間(アノードスイッチ1)とアノードとアノード給電部間(アノードスイッチ2)に導入しました(ダブル・アノードスイッチ)(図9-2)。図9-2(a)ではアノードスイッチ1開/アノードスイッチ2閉となりビーム電流が流れて電磁波を出力,図9-2(b)では開閉が逆となりビーム電流は停止して出力はゼロとなります。アノードスイッチ2により、アノードスイッチ1閉時にアノード給電部までカソード電圧となるのを防ぎ、引き出し電圧の立ち上げの高速化を実現しています(図9-3)。ダブル・アノードスイッチ方式の開発により、電源は定常運転のままでビーム電流をON/OFFし、出力変調幅100%での5 kHz高速出力変調を世界に先駆けて実現しました(図9-4)。これにより、ITER電子サイクロトロン共鳴加熱・電流駆動システムの要求性能を達成しました。