図2-12 試験装置の概要
図2-13 模擬廃液の昇温条件
図2-14 模擬廃液試料温度に対するRu放出量,凝縮液回収量,NOxガス放出速度測定結果
再処理施設の高レベル濃縮廃液に対する冷却機能が喪失すると、廃液中に溶存する放射性物質による崩壊熱によって廃液が加熱され、沸騰,乾固に至る可能性があります。この場合には、廃液中から気相へ放射性物質が放出される恐れがあるため、事故時の安全性を評価するためには、この放射性物質の移行挙動を定量的に把握する必要があります。特にルテニウム(Ru)は、沸騰,乾固の段階で揮発性を有する化合物を形成するために、放出割合がほかの難揮発性物質よりも相対的に大きくなる恐れがあります。このため、Ruは、事故時の公衆への被ばく評価の観点から重要な元素であると考えられます。
私たちは、実廃液組成を参考にランタノイド元素を含む安定同位体を利用して調製した模擬廃液を用い、実貯槽での事故解析で得られた非常にゆっくりとした昇温速度と昇温条件を模擬して試験を行い、より現実的なRuの放出挙動データを取得しました。
図2-12に示した試験装置を用いて、電気炉の加熱量を制御して、図2-13に示すような模擬廃液の昇温を行いました。図2-14に模擬廃液試料温度に対するRu放出量,凝縮液回収量,NOxガス放出速度測定結果を示します。Ruの放出挙動は、沸騰及び乾固段階に対して大きく三つの廃液温度領域に依存することが分かりました。Ruの放出は、沸騰段階では、蒸気放出により廃液の濃縮が進み、高濃度になった硝酸の酸化力によってRu硝酸塩が揮発性のRu化学種に酸化されたために増加し、蒸気放出の終息とともに一旦低下したと考えられます。凝縮液が回収されなかった乾固段階(1)では、揮発性のRu化学種及びNOxガス放出を伴う乾固物中のRu硝酸塩の熱分解反応の進行と終息によるものと考えられます。乾固段階(2)では、乾固物組成の多くを占めるランタノイド硝酸塩の水和物からの水の脱離と考えられる少量の蒸気放出とランタノイド硝酸塩の熱分解反応に伴うNOxガス放出が見られますが、Ru硝酸塩の熱分解反応の終息とともにRuの放出は単調に低下したものと考えられます。乾固段階におけるRu放出量の廃液温度にかかわる詳細データは世界で初めて取得したもので、事故が乾固段階まで進行した場合、Ru 放出の抑制の観点から、廃液温度に着目した有効な事故対策を検討する際に活用できるものと考えられます。