図2-15 STACY更新炉の概要
図2-16 模擬燃料デブリ中のコンクリート体積割合と装荷本数の違いによる反応度変化量の評価
東京電力福島第一原子力発電所事故では、核燃料が溶融し、鉄やコンクリートなどの構造材を巻き込んだ燃料デブリが生じていると考えられています。燃料デブリの取り出しを含む廃炉作業を進めるためには、臨界安全の観点から、燃料デブリの臨界特性をコンピュータ解析によりあらかじめ推定しておくことが重要です。このため、核燃料とコンクリートなどが混在した模擬燃料デブリを調製して臨界実験を行い、その臨界特性を解明するとともに、コンピュータ解析の予測精度を確認する必要があります。そこで私たちは、従来ウラン硝酸水溶液を燃料として用いてきた定常臨界実験装置STACYに対して、二酸化ウラン(UO2)の燃料棒と減速材(水)を取り扱うことができるように更新する計画を進めています。
図2-15に示すように、STACY更新炉において、燃料棒は円筒形状の炉心タンク内に設置された格子板により支持され、所定の格子間隔で配列されます。この格子間隔を変えると、減速材と燃料の体積比(Vm/Vf)が変化し、燃料デブリが置かれている様々な中性子減速条件を模擬することが可能です。この中性子減速条件は核燃料総量や形状とともに臨界特性に大きく寄与します。また、模擬燃料デブリ中のコンクリートは中性子の減速に寄与する水分を含んでいることからUO2とは異なる臨界特性を持ちます。STACY更新炉を用いた臨界実験では、はじめに燃料棒のみで構成された炉心の臨界水位を測定し、次に模擬燃料デブリを加えて臨界水位の変化を測定します。この差を反応度と呼ばれる臨界特性に換算します。
私たちは、STACY更新炉で反応度を精度良く測定するための燃料棒と模擬燃料デブリの配置・装荷本数について、原子力機構で開発した核データライブラリJENDL4と放射線輸送計算コードMCNP5.1による系統的な解析を行いました。図2-16に、一例として、Vm/Vfが1.2のときの模擬燃料デブリのコンクリート体積割合と装荷本数変化による反応度変化の解析結果を示します。コンクリート体積割合が大きいほど反応度が大きく、その変化量は装荷本数に依存することが分かります。反応度変化が大きいほど測定しやすい条件となるため、装荷本数は5本以上が望ましいと考えられます。また、コンクリート体積割合が30%の場合にはいずれの装荷本数でも反応度変化が乏しく、測定が難しいことが予想されます。このような場合には燃料棒本数を変えて臨界特性を測定することなどが考えられます。今後は、STACY更新炉を用いた臨界実験の検討の一環として、実験条件や手順をより具体化・詳細化する予定です。また、臨界実験で得られるデータは、燃料デブリの臨界評価手法の整備に役立てる予定です。
本研究は、原子力規制委員会からの受託研究「東京電力福島第一原子力発電所燃料デブリの臨界評価手法の整備」の成果の一部です。