4-11 核変換システムの新たな概念構築に向けて

−未臨界度調整機構を用いた加速器駆動システム用解析ツール整備−

図4-22 ADSの概念図

図4-22 ADSの概念図

超伝導陽子加速器で加速された陽子ビームを未臨界炉内の鉛ビスマス(Pb-Bi)核破砕ターゲットに当て、そこで生じる核破砕中性子を用いて、燃料領域のMAを短寿命核種に核変換します。

 

図4-23 制御棒を導入したADSの燃焼期間中の陽子ビーム電流値の変化

図4-23 制御棒を導入したADSの燃焼期間中の陽子ビーム電流値の変化

これまでの概念(黒実線)では燃焼期間終わりの陽子ビーム電流値は20 mAほどでしたが、制御棒を導入することで(赤破線)12 mA以下に抑えることが可能となり、ビーム窓の設計条件が緩和されました。

 


高レベル放射性廃棄物地層処分時の負担軽減を目的として、長寿命放射性核種を短寿命化する「核変換技術」の研究を進めています。この技術が実現すれば、高レベル放射性廃棄物の処分場をコンパクトにし、放射能が天然ウラン鉱石のレベルまで減衰するのに要する時間も、数万年から数百年に短縮することが期待できます。私たちは半減期が長く、毒性の強いマイナーアクチノイド(MA)の核変換を集中的に行う方法として、「加速器駆動システム(ADS)」の研究開発を行っています。

ADSは加速器とMAを主成分とした燃料で構成される未臨界炉を組み合わせた核変換システムであり(図4-22)、MAを効率的に核変換することができますが、多くの研究課題があります。その中でも、加速器と未臨界炉の境界(ビーム窓)の設計は、ADSの成立性を考える上で非常に重要な課題です。

ビーム窓の設計で重要なポイントとなるのが、陽子ビームによる発熱です。燃焼期間中、未臨界炉を一定の出力で運転するためには、徐々に陽子ビーム電流値を上げていく必要があります。この上昇を抑えるため、未臨界度調整機構を導入した新たなADS概念の検討に着手しました。本研究では、既存の原子炉で使用実績がある制御棒を、未臨界度調整機構として取り上げました。これまでのADS核設計に用いてきた解析ツールは、比較的単純な体系を対象としていたため、局所的に大きな中性子吸収を行う制御棒を動かしながら解析を行う機能がありませんでした。

そこで、私たちが開発した汎用炉心解析システムMARBLEを基に、新たにADS3Dシステムを整備しました。ADS3Dは、三次元体系を対象として、決定論的手法に基づく中性子輸送計算,燃焼計算,燃料交換を行うシステムであり、制御棒を用いた炉心計算にも対応しています。

ADS3Dにより、制御棒を導入したADS炉心を解析した結果を図4-23に示します。これまでの概念では、陽子ビーム電流値が燃焼期間の終わりに20 mAとなるため、20 mAの発熱条件でビーム窓の設計を行っていました。今回、制御棒を導入することで、陽子ビーム電流値を最大12 mAに抑えることが可能であることが示されました。これにより、ビーム窓の発熱条件が緩和されたことから、引き続き成立性の高いビーム窓の概念検討を行う予定です。