図6-5 カザフスタン共和国の核物理研究所における耐酸化性能を向上させた黒鉛のキャプセル照射試験
図6-6 耐酸化性能を向上させた黒鉛材料の予備酸化試験前後の表面観察試験の結果
高温ガス炉の炉心材料に使用される原子炉級微粒等方性黒鉛は、内部気孔が少なく緻密、酸化触媒となり得る金属不純物が極めて少ない、熱伝導性が高く熱が逃げやすい、加熱による可燃性ガスの放出が少ない等の理由から、空気侵入事故のような事故時において、炎を上げて燃えるような自己燃焼が起こらない優れた特性を有しています。今回、いかなる事故においても炉心黒鉛の酸化を防ぎ、高温ガス炉の安全性をさらに向上させることができる黒鉛材料を開発することを目的として、黒鉛材料表面に炭化ケイ素(SiC)を付加した耐酸化黒鉛の開発を、黒鉛メーカ4社(東洋炭素,イビデン,東海カーボン,新日本テクノカーボン)と共同で進めています。
高温ガス炉開発が国家計画に位置付けられているカザフスタン共和国の核物理研究所の照射試験炉(以下、WWR-K炉)を用いて、4社が試作した耐酸化黒鉛の中性子照射試験を行いました。試験は、高温ガス炉黒鉛構造物の最も厳しい炉内環境を模擬し、内部構造物のγ線発熱及び真空温度制御により最高1200 ℃の照射温度を実現する照射キャプセルを作成し、中性子照射試験を実施しました(図6-5)。一方、照射試験に先立ち、未照射条件での酸化試験を実施し、耐酸化黒鉛の酸化特性を調べました。酸化温度1350 ℃、酸化時間はSiCの酸化速度の値が飽和に達する20時間とし、さらに耐酸化黒鉛が十分に酸化し得る試験条件とするため、空気中の酸素濃度を模擬し、ヘリウム中に20%の酸素を含んだ混合ガスを、毎分100 L流して試験を実施しました。
未照射条件での酸化試験の結果、耐酸化黒鉛の重量は酸化時間とともに増加することが確認でき、これは、耐酸化黒鉛表面のSiCが二酸化ケイ素(SiO2)に酸化したことを示します。また、試験前後の重量変化から耐酸化黒鉛の酸化速度を評価した結果、酸化速度は時間とともに減少することが確認できました。すなわち、酸化により耐酸化黒鉛表面に生成したSiO2が保護膜として機能し、SiCの酸化を抑制する効果が発揮されたことが確認できました。また、試験前後の表面観察から、表面に三角錐状の塊が多数生成されたこと、酸化前と比較し表面が滑らかになったこと、試験片冷却時に生じたと考えられる微少クラックが生成されていることが分かりました。これらはいずれも黒鉛材料の特性を劣化させる原因とはならず、したがって、SiCを付加した黒鉛が十分に耐酸化性能を有していることが確認できました(図6-6)。
今後は、WWR-K炉により中性子照射を施した4社の耐酸化黒鉛について、寸法測定,微細組織観察,酸化試験等の照射後試験を行い、詳細に分析,評価し,耐酸化黒鉛の中性子照射環境下での耐酸化性能を明らかにしていく予定です。