図6-1 高温ガス炉の特長
エネルギー資源に乏しい我が国では、海外からの化石資源の依存度を下げ、さらに地球温暖化問題解決に向けて二酸化炭素の排出量を低減するために、安全性の確保を大前提として原子力エネルギーの利用を進めることを基本方針としています。そのためには、原子力エネルギーを発電だけでなく様々な分野で利用することが期待されます。高温ガス炉は優れた固有の安全性を有し、多様な産業利用が見込まれることから、エネルギー基本計画や日本再興戦略2016において、高温ガス炉の研究開発を推進することが国の方針として示されています。これに応えるため、高温ガス炉産学官協議会が設立され、高温ガス炉の実用化戦略について検討が進められています。
高温ガス炉はセラミックス被覆燃料,黒鉛構造材,ヘリウムガスを使用することにより、950 ℃の高温熱を取り出すことができるとともに、いかなる事故が発生しても原理的に炉心溶融を起こさない設計が可能な原子炉です。世界最先端の国産技術(放射性物質を閉じ込める被覆燃料粒子の製造技術,優れた材料特性及び耐照射性を有する大規模黒鉛ブロックの製造技術など)を用いて建設した高温工学試験研究炉(HTTR)は、2004年に950 ℃の熱を取り出すことに世界で初めて成功し、2010年には950 ℃で50日間の連続運転により、安定に高温核熱を供給できることを実証しました。さらに、原子炉の冷却が停止し、スクラム停止に失敗するような異常状態においても、原子炉が自然に停止し、安定な状態を維持できることも実証しました。
このように優れた安全性を有する高温ガス炉は、ヘリウムガスタービンによる高効率発電や燃料電池自動車や製鉄還元の水素供給源として、さらに、廃熱を利用した海水淡水化等の多様な産業利用に応えることができます(図6-1)。
現在、私たちは、安全性や経済性に優れた高温ガス炉の特長を活かした、実用高温ガス炉の国際安全基準の検討を国際協力の下で進めるとともに(トピックス6-1)、我が国が保有するプルトニウムを高温ガス炉を用いて、安全に燃焼することを目指した燃料等の基盤技術の確立に関する研究(トピックス6-2)、事故時の黒鉛酸化を抑制して、さらなる安全性の向上を目指した耐酸化黒鉛材料の開発を進めています(トピックス6-3)。
熱利用の研究では、水から水素を製造する熱化学法IS プロセスについて、水素製造熱効率の向上を目指して主要工程の一つであるブンゼン反応周りのフローシートの改善と提案した技術の有効性を確かめる試験を実施しました(トピックス6-4)。また、熱利用率を高めるための水素・電力コジェネレーションシステムの確立に向けてHTTRを用いた実証試験の検討を進めています(トピックス6-5)。さらに、東日本大震災以降運転を停止しているHTTRの炉内黒鉛ブロックを取り出し、目視による外観検査を行い、耐震評価と併せて健全性を確認しました(トピックス6-6)。現在HTTRは震災後に制定された新規制基準の適合性確認を受けており、再稼働に向けて準備を進めています。