6-6 3.11地震時の高温ガス炉の健全性を明らかにする

−耐震評価と外観確認により黒鉛構造物の健全性を確証−

図6-11 HTTRの原子炉圧力容器と制御棒案内ブロック

図6-11 HTTRの原子炉圧力容器と制御棒案内ブロック

HTTRの原子炉圧力容器の断面図と制御棒案内ブロックを示しています。原子炉圧力容器内の構造物は、主に黒鉛で構成されており、制御棒案内ブロックのほかに燃料ブロック,可動反射体ブロック,固定反射体ブロック等が設置されています。

 

図6-12 制御棒案内ブロックの外観検査

図6-12 制御棒案内ブロックの外観検査

原子炉圧力容器内の制御棒案内ブロックは、起動用の中性子源の交換作業の際に取り出されました。東日本大震災後、初めて外観検査を実施、損傷等の異常がないことを確認するとともに、耐震解析結果の妥当性を検証できました。

 


2011年3月11日に発生した東日本大震災(以下、「3.11地震」)後、原子炉の耐震健全性が重要な懸案事項となりました。HTTRでは、耐震健全性を確認するために、原子炉建家や設備・機器の外観検査を実施しました。しかし、原子炉圧力容器内に設置された構造物に対しては、外観検査を実施することは極めて困難です。また、炉内の構造物は、主に黒鉛で構成されており、その周囲に設けた炉心拘束機構により動きが抑制されます(図6-11)。しかし、黒鉛構造物間にわずかな隙間があるので、3.11地震のような大きな地震では、黒鉛構造物同士の衝突により損傷するおそれがあります。このため、耐震解析により健全性を確認する必要がありました。原子炉圧力容器内に地震観測装置を設置できないため、黒鉛構造物に加わる地震動は解析により算出する必要があります。解析で用いる地震動は、原子炉建家内外に設置された地震観測装置により取得した地震動と原子炉建家を支持する地盤の伝達関数との関係より算出します。黒鉛構造物の耐震評価の手法は、原子炉建家,原子炉圧力容器,黒鉛構造物の順に外側から内側へ評価を進めていき、外側の評価で得られた地震動を用いて内側の評価を実施します。また、耐震評価の解析モデルは、過去に縮小スケールの実機を用いた実験及び解析を通して妥当性を確認したモデルを使用しています。評価の結果、全ての黒鉛構造物の耐震健全性を確認しました。

一方、HTTRでは2015年10月に原子炉起動用の中性子源の交換作業を実施し、その際に炉心内の中性子源を装荷している制御棒案内ブロックを取り出し、外観検査を実施しました(図6-12)。炉内構造物の取り出し作業は、3.11地震以後初めてであり、直接健全性を確認できる絶好の機会となりました。外観検査の結果、地震荷重が集中する制御棒案内ブロックの肉厚の薄い箇所や凸形状であるダウエルピンを含めて、全ての箇所に損傷等の異常がないことを確認するとともに、耐震解析結果の妥当性を検証できました。

今後、再稼働に向けて新規制基準への適合性確認の審査に対応するため、最新の知見を踏まえて策定された基準地震動等を用いた評価を実施し、黒鉛構造物のみならず、様々な設備・機器に対して耐震健全性を確認します。