6-4 反応が阻害される条件を調べ熱効率向上に活かす

−HI濃縮器への不純物混入の影響を調べる−

図6-7 現在、試験中のISプロセス連続水素製造試験設備の外観
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図6-7 現在、試験中のISプロセス連続水素製造試験設備の外観

工業材料を用いてISプロセス全機器で構成される連続水素製造試験設備を製作しました。本設備は、各機器の信頼性確証及び連続水素製造性能の検証を目的としています。HI溶液を濃縮するために電解電気透析器が組み込まれています。

 

図6-8 HI溶液の生成と濃縮

図6-8 HI溶液の生成と濃縮

ブンゼン反応で生成したHI溶液を精製してから濃縮を行います。陽極側溶液の精製を不要とするフローシートを考案しました。

 

図6-9 HI溶液濃縮試験後の陽イオン交換膜

図6-9 HI溶液濃縮試験後の陽イオン交換膜

硫酸混入なし(Case A)は無論、陽極側溶液に硫酸を混入させても硫黄の析出は認められませんでした(Case B)。一方、陰極側に硫酸を混入した場合には硫黄が生成してしまいました(Case C)。

 


高温ガス炉の熱利用技術として、熱化学水素製造法ISプロセスの研究開発を行っています。ISプロセスは、ヨウ素(I)と硫黄(S)を用いた化学反応を複数組み合わせて水分解を行う化学プロセスで、原子力や自然エネルギーを熱源とした化石資源に依存しないエネルギーセキュリティに優れる将来の水素製造技術の一つとして期待されています。本プロセスの研究開発において重要な課題の一つが水素製造熱効率を向上させることです。

熱効率を向上させるには、加熱操作などプロセスを動作させるために必要な加熱量の低減が有効です。本研究では、ブンゼン反応生成溶液に対して行う精製と呼ばれる操作に着目しました。ISプロセスにおけるブンゼン反応は、本プロセスの出発点とも言える反応で、水,ヨウ素,二酸化硫黄を反応させて、ヨウ化水素(HI)に富む水溶液及び硫酸に富む水溶液の二液相に分離した溶液を生成します。その際、生成するHI溶液に含まれる硫酸成分が、ブンゼン反応の後段に位置するHI濃縮(陽イオン交換膜を用いた電解電気透析、図6-7)やHI蒸留分離において硫黄生成など有害な副反応を引き起こし反応を阻害する原因となります。HI溶液と硫酸溶液は一定の割合で相互溶解するので、HI溶液の加熱を伴う精製操作により取り除くしかありません。この操作は、溶液の蒸発を伴うため所要エネルギー増加の要因となります。

この精製操作の温度を最適化するなどの所要熱量低減法が試みられていましたが、私たちは、精製に要する溶液量自体を大幅に減らし、これに応じて所要エネルギーを低減する方法を発案しました(図6-8)。精製操作後のHI溶液は、電解電気透析法により濃縮しますが、従来のフローシートでは、電解電気透析用セルの陰極・陽極両側に通液していました。今回、HI溶液に混入した硫酸は、還元環境にさらされると硫黄へ変化するという化学的性質に着目しました。つまり、酸化環境の陽極側溶液に硫酸が混入したとしても硫黄が生成しない可能性があります。これならば、精製操作は、ブンゼン反応で生成するHI溶液の一部である陰極側溶液に対して行うだけで良く、精製すべき溶液量を減らし所要エネルギーを低減できる上にプロセスも簡略化できます。

本方法の有効性を確認するため、陽極側溶液へ硫酸が混入した溶液としない溶液を用いて電解電気透析法によるHI濃縮実験を行いその影響を調べました。予想通り陽極側には硫黄が生成しないだけでなく、陽極側への硫酸混入が電圧及び陽イオン交換膜の選択性に影響しないことを明らかにしました(図6-9)。これにより、精製操作に伴う所要熱量を削減でき、従来と比べ水素製造熱効率を10%ほど向上できる可能性を示しました。