8-11 電子レンジ内で置く高さを変えると温まり方は変わる

−マイクロ波による硝酸系溶液の加熱効率−

図8-26 マイクロ波脱硝反応の過程

図8-26 マイクロ波脱硝反応の過程

マイクロ波加熱直接脱硝法では、プルトニウムとウランの混合硝酸溶液にマイクロ波を照射することで、(a)昇温・(b)濃縮・(c)硝酸塩の熱分解反応を生じさせて(d)固体の酸化物を得ています。

 

図8-27 マイクロ波加熱装置の構造

図8-27 マイクロ波加熱装置の構造

試料の高さは、試料容器の下に敷いたテフロン板の厚さを変えて変化させました。

 

図8-28 硝酸蒸発時の加熱効率変化

図8-28 硝酸蒸発時の加熱効率変化

実験の結果、試料高さが10 〜 30 mmまでは効率が増加し、30 mmを超えると増加しなくなりました。

 


原子炉で使い終わった核燃料は、再処理工場で処理されてプルトニウム(Pu)とウラン(U)が硝酸溶液の状態で回収されます。欧米では沈殿法によりPuを単体で酸化物へ脱硝(転換)していましたが、我が国では原子力を平和利用のみに限定していることから、核兵器への転用がしにくいマイクロ波加熱直接脱硝法によるPu/U混合転換技術を開発してきました。この手法はPuとUの混合硝酸溶液にマイクロ波を照射して図8-26に示すように昇温・濃縮・熱分解反応を生じさせて酸化物に転換します。

マイクロ波加熱は、一般に食品の加熱などに利用されており、加熱効率は60 〜 80%程度です。これに対して、マイクロ波加熱直接脱硝法では水や硝酸を蒸発させ、硝酸塩を熱分解させるので加熱中に試料の温度や状態が大きく変わり、効率は低くなると考えられますが報告例はわずかです。加熱効率を把握することは省エネルギー化を図るために重要であり、本研究で詳細に調査・検討しました。まず、加熱実験では昇温・濃縮・熱分解反応を個々に検討できるようにするため加熱試料を水,硝酸溶液,硝酸Pu/U混合溶液を用いました。実験結果の電磁場解析評価を行い、加熱条件による効率の変化を把握しました。

実験の結果、加熱効率は水の昇温や蒸発時には約60%で一般の食品とそれほど違いませんでした。このことからMOX燃料の加熱装置でも一般的な食品と同等の性能が得られることが分かりました。しかし、硝酸の蒸発や混合溶液の脱硝のときは約50%と少し低く加熱しづらいことが分かりました。次に、加熱効率の改善のため、硝酸を蒸発させる実験時には図8-27のように試料の高さを10 〜 50 mmまで変えて加熱効率の変化を調査しました。実験の結果は、図8-28のように10 〜 30 mmまでは効率が増加し、30 mmを超えると増加しなくなりました。

電磁場解析結果から、試料の高さが30 mmまではオーブン内の電界分布の乱れが減少し加熱がしやすくなりますが、30 mm以上になると変わらなくなることが分かり、実験の結果と良く一致しました。

これらの結果からマイクロ波加熱直接脱硝法における効率は、水の昇温や蒸発時には一般のマイクロ波加熱時とそれほど違いませんが、硝酸の蒸発や脱硝のときは10%程度低下することが分かりました。また、試料高さが低いと効率が低下することが分かりました。これらは、今後の装置の開発時に配慮すべき重要な知見です。