8-10 国ごとに異なる放射性核種の振る舞いの評価

−使用済燃料直接処分における放射性核種の放出挙動のレビュー−

図8-24 各国の安全評価報告書における瞬時放出率の評価値の例(主にPWR, UO2燃料のものを抜粋)

図8-24 各国の安全評価報告書における瞬時放出率の評価値の例(主にPWR, UO2燃料のものを抜粋)

廃棄体から速やかに放出される成分の割合を示しています。瞬時放出の対象としている核種はおおむね共通している一方で、評価値が国(報告書)ごとに異なっていることが分かります。これは、処分の対象とする燃料の炉型や燃焼度及びそれらが混在することの多様性が国ごとに異なっているからです。

 

図8-25 各国の安全評価報告書における燃料溶解速度の評価値から導出した累積燃料溶解率と処分後経過時間の関係(北村ほか(2016)より許可を得て転載)

図8-25 各国の安全評価報告書における燃料溶解速度の評価値から導出した
累積燃料溶解率と処分後経過時間の関係(北村ほか(2016)より許可を得て転載)

燃料溶解速度が高いほど速く溶解します。こちらも評価値が国(報告書)ごとに異なっていますが、比較的最近(2010年以降)に公開された評価(図中のSR-Site, TURVA-2012及び4CS)は類似していることが分かります。

 


私たちは、エネルギー基本計画に基づき、高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の地層処分の代替処分オプションの一つとして、使用済燃料を直接深地層中に処分するための研究開発を行っています。ガラス固化体の地層処分と大きく異なる点の一つに、廃棄体からの放射性核種の放出挙動が挙げられます。したがって、使用済燃料からの放射性核種の放出挙動を評価することが重要となっています。しかしながら、これまで我が国では直接処分の安全性を評価するための研究開発を行ってこなかったことから、この分野の知見が大幅に不足しています。

そこで、欧米各国では直接処分システムの設計や安全性の評価を実施していることを踏まえ、廃棄体からの放射性核種の放出挙動に関する最新の評価値とその選定根拠を調査し、その結果を比較参照しつつ、我が国の代替処分オプションの一つである直接処分の安全性を評価するための値を選定することを計画しています。調査対象とした安全評価報告書は、スウェーデンSR-Site(2011年公開、以下同様),フィンランドTURVA-2012(2012),スイスEN 2002(2002),フランスDossier 2005(2005),カナダFourth Case Study (4CS)(2012)などです。

廃棄体からの放射性核種の放出には、気体状若しくは揮発性の核種による速い放出と、燃料の溶解や金属の腐食と調和的に進展する遅い放出があります。前者の評価値である瞬時放出率、後者の評価値の一つである燃料溶解速度を基に導出した燃料の累積溶解率について、各報告書の設定値をそれぞれ図8-24及び図8-25に示します。瞬時放出率については、設定の根拠となる核種溶出試験の文献がおおむね共通している一方で、処分対象燃料の特徴(炉型や燃焼度及びそれらが混在することの多様性)は国ごとに異なり、使用済燃料中の核種インベントリの評価値の差異が設定値の差異に現れていることが分かりました。さらに、根拠データを自国に適用させる際に、最悪ケースの想定が異なることでも、設定値に差異が現れていることが分かりました。また、燃料溶解速度については2000年以降に知見が大きく進展しており、その成果を取り込んだ比較的最近の評価値(図8-25中のSR-Site, TURVA-2012及び4CS)が類似していることが分かりました。

本研究は、経済産業省委託事業である「直接処分等代替処分技術開発」(平成27年度)の成果の一部です。