8-9 地層処分による人への影響を評価する

−表層環境条件に応じた生活圏評価手法の開発−

図8-22 表層環境の構成要素の概念図(例)

図8-22 表層環境の構成要素の概念図(例)

生活圏評価では、図に示すような表層環境の構成要素を設定し、構成要素間の物質移行や構成要素からの人間への被ばくをモデル化して評価します。構成要素は主に地理的条件と人間の活動に伴う土地の利用状況に基づいて設定します。

 

図8-23 物質移行の基本マトリクスでの整理(例)

図8-23 物質移行の基本マトリクスでの整理(例)

基本マトリクスは、表層環境の構成要素を対角要素として構成要素間の物質移行のプロセスを表現するものです((a)は自然現象による物質移行,(b)は人間活動による物質移行の例)。

 


地層処分場の安全性の評価においては、人間の生活環境である表層環境(生活圏)における処分場由来の核種の移行及び人間への被ばくのプロセスを表層環境条件に応じて設定し、線量の算出・評価を行います(生活圏評価)。

現在、評価対象とする表層環境条件は決まっていないため、それが具体化されたときに柔軟に対応できるように様々な表層環境条件に適用可能な生活圏評価のためのモデル化手法を準備しておくことが重要となります。

この研究で考案したモデル化手法の特徴は、物質移行のプロセス(水や土の移動とそれによる核種の移行など)や被ばくのプロセス(核種を含む水の摂取など)を様々な表層環境条件に対して事前に幅広く整備しておくことにより、評価対象とする表層環境条件の特徴に応じて該当する物質移行と被ばくのプロセスを抽出し、モデルを構築できることです。この事前の整備では、まず、一般的に考えられる表層環境の構成要素(図8-22での陸域(上部),水域,農地など)、その構成要素間の関係性(隣接関係,上下関係など)を整理し、さらに地理的条件に応じた自然現象による構成要素間の物質移行のプロセスを整理した17通りの基本マトリクス(図8-23(a))と、土地利用状況に応じた人間活動に基づく構成要素間の物質移行のプロセスを整理した8通りのマトリクス(図8-23(b))を整備しました。また、各構成要素における人間活動に基づいて被ばくのプロセスも整理しました。これにより、評価対象とする表層環境条件が与えられた際には、その条件に該当する構成要素や物質移行と被ばくのプロセスを基本マトリクスから抽出することで、生活圏評価のモデルを構築することができます。

本手法は、事前に幅広く整備した構成要素及び物質移行と被ばくのプロセスを共通的に利用するため、モデル作成の効率化,物質移行と被ばくのプロセスの整合性や抜けのチェックの容易化、知識や経験の違い等の人への依存性の低減が期待できます。さらに、モデル構築の作業経緯(構成要素や物質移行と被ばくのプロセスの抽出結果やその理由など)を記録しやすく、後日の確認や再評価も容易になるといった利点があります。

今後は、表層環境条件の様々な想定に対しての適用性の確認と手法の改善を進めていきます。