8-8 堆積物の年代決定のための強力な手段を開拓する

−火山ガラスの屈折率,化学組成の詳細な分析手法を構築−

図8-20 火山ガラスの実体顕微鏡写真

図8-20 火山ガラスの実体顕微鏡写真

(a)7300年前の鬼界カルデラ噴火起源の火山ガラスと比べ、(b)1471 〜 1476年の桜島文明噴火起源の火山ガラスは水和部(例: 白い丸で示したガラス片の周縁部の濃灰色の部分)の厚さが非常に薄いことが分かります。(c)宮崎平野の軽石層から得られた火山ガラスは、その形態と水和部の厚さが桜島文明噴火起源の火山ガラスとほぼ一致します。

 

図8-21 LA-ICP-MSによる火山ガラスの多元素分析の結果
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図8-21 LA-ICP-MSによる火山ガラスの多元素分析の結果

宮崎平野の軽石層から得られた火山ガラス3試料と、桜島火口近傍に露出する文明噴火起源の軽石中の火山ガラス(Sz-Bm)の化学組成は、ほとんどの元素で非常に類似しています。

 


堆積物の年代を決定することは、地震活動や火山活動が起きた時期を推定する場合などに重要となります。例えば、地震を引き起こす断層がずらしている堆積物と断層を被覆する堆積物の年代を比較することにより、断層がずれた時期を推定することができます。

堆積物の年代決定手法の一つとして、堆積物に含まれる火山ガラスや軽石などのテフラの給源を特定し、堆積時期を推定することが行われます。特に、日本列島は火山が多く、数十万年前以降については、主要な火山に対し、広範囲にテフラを堆積させた噴火が起きた時期についてかなり明らかになっていることから、テフラは強力な堆積物の年代決定の手段となっています。テフラの給源の特定は、テフラに含まれる鉱物などの組成や、火山ガラスの形態,屈折率,化学組成などに基づいて行われます。しかし、同じ火山で噴火時期だけが異なるテフラを比較する場合などは、従来の観察・分析手法のみではテフラの区別が困難な場合もしばしばありました。

本研究では、火山ガラスの屈折率の測定や化学分析の方法を工夫・高度化することにより、鹿児島県の桜島火山の文明・安永・大正の各時代の噴火起源のテフラを明瞭に識別することに成功しました。これらのテフラが識別できるのは従来、火口付近からのテフラ層の連続性が肉眼で追跡できる範囲に限られていましたが、本研究により、火口から遠く離れた地点でも、堆積物の分析のみで、桜島火山の文明・安永・大正噴火の各テフラを認定できることになります。

火山ガラスの屈折率は火山や噴火時期によって固有の値の範囲を持つことが知られているため、テフラの同定の根拠の一つとして用いられますが、ガラスが水和しているかどうかによっても屈折率は変化します。水和した部分の厚さは、おおむね堆積後の経過時間と正の相関関係があるので、古い時代に堆積した火山ガラスほど水和した部分は厚くなります(図8-20)。そのため、水和部の厚さから火山ガラスの堆積時期が推定できるとともに、ガラス片の周縁部の水和している部分と中央部の水和していない部分とを分けて屈折率の測定を行うことにより、屈折率分析の精度を高めることができました。

化学分析では、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)を用いて、一粒の火山ガラスから多元素の組成を同時に分析することを実現しました(図8-21)。火山ガラスの化学組成も火山や噴火時期によって固有の組成範囲を持つことから、LA-ICP-MS法で得られた多数の化学組成データを統計的に解析することにより、テフラの給源の推定に役立ちます。

本研究ではさらに、これらの分析を宮崎平野で見いだされた軽石層に対して行うとともに、軽石層前後の堆積物に含まれる木片などの炭質物の放射性炭素年代を土岐地球年代学研究所のペレトロン年代測定装置で測定することにより、この軽石が桜島火山の文明噴火に由来するものであることを明らかにしました。