図8-17 センサー設置レイアウト
図8-18 立坑掘削中及び掘削後のAE発生数,間隙水圧の経時変化
図8-19 AEの発生位置の三次元分布
高レベル放射性廃棄物の地層処分では、アクセス用の坑道として、立坑と斜坑の2種類が考えられています。アクセス坑道掘削時には、応力の変化や掘削の衝撃により、周辺岩盤にき裂が発達します。このような損傷は、立坑周辺岩盤の崩落を生じさせたり、廃棄体埋設後の核種の移行経路になり得るなど、地層処分システムのうち、天然バリアとしての岩盤の性能に影響を与えると予想されるため、性状の詳細な把握が求められます。しかしながら、岩盤損傷の詳細な検討事例は少ないのが現状です。
幌延深地層研究センターでは、岩盤にき裂が発生するときに生じる微小振動(アコースティックエミッション、以下AE),間隙水圧,温度を光ファイバー式のセンサーにより、1本のボーリング孔内で計測できるマルチ光計測プローブを開発し、東立坑の深度350 〜 380 mの掘削時及び掘削終了後の岩盤損傷の長期的なモニタリングを実施しています(図8-17)。
立坑掘削中及び掘削後に全てのセンサーで受振した10分ごとのAEの発生数,間隙水圧の経時変化を図8-18に示します。本図より、立坑掘削中にAEの発生が顕著であり、立坑壁面から約1.5 mの位置にあるS3孔において、間隙水圧が急増・急減する現象が確認されました。一方、立坑壁面から4 m程度離れたS2孔においても、変動幅は大きくないものの、水圧の増大が確認されました。掘削後は、数は少ないもののAEの発生が確認され、間隙水圧はS3孔では最終的に0 MPaに近い値まで低下し、S2孔では0.7 MPa程度まで低下した後、図中緑色の網掛け部に示す立坑掘削前の値に戻る傾向が見られました。さらに、AEの発生位置の三次元分布を示す図8-19より、掘削中は立坑の壁面から約1.5 mの範囲までAEの発生が集中し、掘削後はその外側でAEが発生したことを確認しました。
以上の結果から、立坑掘削により、壁面から約1.5 mの範囲にわたって岩盤の損傷が顕著となり、掘削後は損傷が進展することが推定されます。また、立坑掘削により周辺岩盤にき裂が発生,進展,閉塞したことに起因してAEが発生し、その結果地下水の流れに変化が生じたため、立坑周辺岩盤の水圧が変化したことも推定されます。今後もモニタリングを継続し、掘削後のAE発生や間隙水圧変化のメカニズムを探るとともに、立坑周辺岩盤の長期的な挙動を分かりやすく示す概念モデルを構築していきます。