1-10 汚染水やがれき中の93Zr、94Nbや93Moの分析法の開発

−測定が難しい核種の放射化学分離−

図1-21 汚染水中(左)やがれき(右+左)に含まれる93Zr、94Nbや93Moの分離法

図1-21 汚染水中(左)やがれき(右+左)に含まれる93Zr、94Nbや93Moの分離法

汚染水やがれきなどに含まれる93Zr、94Nbや93Moを定量するためには、主成分や放射性Csなどからの分離や、これらの核種の相互の分離が必要となります。ここでは、TEVAレジンとTRUレジンを用いた分離法を開発しました。

 


東京電力福島第一原子力発電所には、放射能濃度の高い汚染水やがれきなどが多量に存在します。汚染水は、水処理施設において汚染が除去されていますが、この処理によりスラッジなどの二次廃棄物が発生します。この二次廃棄物やがれきなどの処分法を検討するためには、汚染水やがれきに含まれる安全性への影響が大きいと予想される放射性核種(重要核種)の濃度を調べる必要があります。重要核種の候補であるジルコニウム-93(93Zr)、ニオブ-94(94Nb)やモリブデン-93(93Mo)などについてはこれまでに原子力機構における分析経験がほとんどないため、分析法の確立が必要でした。これらの核種を分析するためには、放射能濃度の高いセシウム-137(137Cs)や海水、がれき等の主成分等からこれらの核種を分離し(粗分離)、かつ、これらの核種を相互に分離する(逐次分離)必要があります。

そこで、Csや海水、がれきの主成分の多くは主に陽イオンとして溶液中に存在するのに対し、Zr、NbやMoは陰イオンを生成しやすいことに着目し、陰イオン交換体の性能を持つTEVAレジンを用いたクロマトグラフィーにより分離を行うことにしました。この手法は、既存の沈殿分離法などと比べると操作が簡易で迅速に分離できるという利点があります。まず、TEVAレジンにより様々な酸溶液からZr、NbやMoがどれくらい抽出されるかを調べ、分離に適した溶液条件を検討しました。その結果、図1-21に示すように、試料溶液を0.1 M HF溶液に調製すれば、主な陽イオンは溶出させ、Zr、NbやMoはTEVAレジンに保持させることで粗分離が可能であることが分かりました。また、7 M HCl-0.5 M HFによりMoとNbはTEVAレジンに保持させたままZrのみを溶出させ、4 M HFによりNbを保持させたままMoのみを溶出させ、1 M HNO3によりNbを溶出させることで逐次分離できることが分かりました。そこで、この分離法により、汚染水中の93Zr、94Nbと93Moの分析を行いました。

しかし、がれきを溶かして試料を調製する場合には、0.1 M HF溶液とすることができません。このような場合には、図1-21の右側のスキームに示すように、より高い濃度の酸溶液からTRUレジンを用いてZrを分離した後、汚染水と同様の分離法でZrを精製することでがれき中の93Zrの分析が可能であることを示しました。