図1-42 しいたけを栽培した後の原木中Cs分布
図1-43 原木しいたけ栽培におけるCsの挙動
福島県は原木しいたけ栽培が盛んに行われ、日本中に原木を供給する原木産地でもありました。しかし、東京電力福島第一原子力発電所事故により、原木産地が広範囲に放射性核種(主にセシウム-137とセシウム-134、以下Cs)で汚染したため、福島では原木しいたけが出荷制限され、原木の生産ができなくなりました。しいたけなどのきのこ類がCsを吸収し蓄積することは知られていましたが、Csの吸収を防ぐ方法は全く検討されていませんでした。
本研究では、原木しいたけ栽培におけるしいたけへのCs蓄積を防ぐ方法を検討するため、まず、実際にCsで汚染した原木におが屑種菌(おが屑にしいたけの菌糸を混ぜた種菌)を植えて栽培し、しいたけによるCsの吸収を調べました。しいたけに吸収されたCsは、しいたけの子実体(傘と柄)における平均値として1 kgあたり約160 Bqでした。これは、栽培に用いた原木のCs濃度、1 kgあたり約160 Bqとほぼ同じ値でした。次に、Csを吸着する能力が高いバーミキュライトという鉱物の粉末をおが屑の重量に対して5%または10%となるように加えたおが屑種菌を原木に植えてしいたけを栽培しました。すると、しいたけの子実体に蓄積したCsの濃度は、バーミキュライトが5%のときは原木のCs濃度の約80%、バーミキュライトが10%のときは原木のCs濃度の約60%に減少しました。バーミキュライトの代わりにゼオライトという鉱物を用いた場合にも同等またはそれ以上に減少しました。このことから、バーミキュライトとゼオライトがしいたけ子実体へのCs吸収を減らしたと考えられます。バーミキュライトを加えたおが屑種菌を用いて栽培したしいたけを採取した後で原木中のCs分布を測定したところ、おが屑種菌の部分にCsが集まっていることが分かりました(図1-42黄色い丸)。おが屑種菌からしいたけの子実体が成長しなかった部分にはCsが集まらなかったので(図1-42白い丸)、原木に含まれる水分をしいたけが吸収するときに、水に溶けていたCsも水と一緒に原木中を移動し、しいたけに吸収される前に一部のCsが鉱物に吸着したと考えられます(図1-43)。
これらの結果から、鉱物の種類と混合率を調整することによって、しいたけへのCs蓄積を大幅に減らすことができる可能性があると考えられます。