1-7 汚染水処理により取り除かれた放射能量の推定

−汚染水中の放射性物質濃度を計算−

図1-13 汚染水中の放射性物質の濃度変化の推移

図1-13 汚染水中の放射性物質の濃度変化の推移

事故直後に高濃度であった放射性物質濃度は、冷却水の連続的な供給により濃度が下がりましたが、2012年中頃以降は、濃度低下が鈍化しています。核燃料から放射性物質が継続的に溶け出している影響だと考えられます。図中の実線は分析値を元に計算した結果を表します。

 

図1-14 汚染水処理装置が稼働して1000日後(2014年3月13日)におけるいくつかの放射性物質の放射能分布

図1-14 汚染水処理装置が稼働して1000日後(2014年3月13日)におけるいくつかの放射性物質の放射能分布

事故直前に1F1〜1F3の炉心にあった放射能量の合計を100%とすると、汚染水処理により除去された放射能量は、137Csが約35%、90Srが約24%、106Ruが1%未満、129Iが約94%と推定しました。物質により大きく異なることが示唆されます。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)では、汚染水中の放射性物質の除去を目的としてセシウム(Cs)吸着装置などが運転されています。汚染水処理に伴い、使用済み吸着材やスラッジといった二次廃棄物が発生しています。このような二次廃棄物は、従来の原子力発電所の運転では発生しないため、安全に保管し処理・処分する方法を新たに検討する必要があります。そのためには、廃棄物中に含まれる放射性物質の種類と量を把握することが不可欠です。

1号機〜3号機(1F1〜1F3)内の核燃料を冷却した水は、原子炉建屋、タービン建屋などを経由して集中廃棄物処理建屋に一旦集められた後、汚染水処理設備へ送られています。そのため、汚染水処理設備への入口である集中廃棄物処理建屋での放射性物質の濃度推移を把握することで、二次廃棄物全体の放射能量を推定することに役立ちます。134Csと137Csに関しては、汚染水中の濃度が高く測定もしやすいため、データも数多く存在します。したがって、廃棄物中の放射能量の推定が比較的容易です。一方、他の放射性物質は汚染水中の濃度が低く検出されないため、あるいは分析方法が複雑なために、データ数が限られています。そこで、これらの放射性物質についてもCsと同様に汚染水中の濃度変化を推定するために計算モデルを作りました。

このモデルは、2012年中頃前後で137Cs濃度が低下する様子が異なることを考慮し、放射性物質の放出源として、初期に炉内水へ移行したものと燃料から冷却水へ継続的に移行するものの二つを仮定しました。このモデルから導いた式に濃度分析結果を当てはめることで、ストロンチウム-90(90Sr)、ルテニウム-106(106Ru)やヨウ素-129(129I)などについても濃度を推定できるようになりました(図1-13)。放射性物質により違いが見られ、例えば、90Srは137Csと比べて初期濃度が小さいですが、継続的溶出速度は同等であるため、両者の濃度は近づいています。106Ruは初期濃度と継続的溶出のいずれも相対的に小さいので、137Csよりも低い濃度で推移しています。

また、濃度推移の計算結果を用いて、水処理二次廃棄物全体の放射能量及び原子炉内に残存する放射能量を推定しました(図1-14)。その結果、高温での揮発性が高く、かつ水に溶けやすい性質を持つCsとIは二次廃棄物の割合が高いことが分かりました。他方、Ruのような水に難溶性の成分は、ほとんどが原子炉内に留まっていると推測されます。