1-6 核燃料再処理機器材料に対する海水成分・コンクリート成分の影響を調査する

高レベル廃液貯槽環境における硫酸イオンの材料腐食への影響評価−

図1-10 硫酸イオンを含むHAWにおけるSUS316L試験片の腐食状態

図1-10 硫酸イオンを含むHAWにおけるSUS316L試験片の腐食状態

960 hまで材料浸漬試験を実施し、HAW中ではいずれの条件においても全面的な粒界腐食が進展することを確認しました。

 

図1-11 SUS316Lの腐食速度とHAW中の硫酸イオン濃度との関係

図1-11 SUS316Lの腐食速度とHAW中の硫酸イオン濃度との関係

重量減少量から腐食速度を算出し、硫酸イオンを含まない条件を1とした相対値でグラフに示しました。腐食速度は硫酸イオン濃度の上昇に伴い、抑制されました。

 

図1-12 SUS316LのSO4信号強度とHAW中の硫酸イオン濃度との関係

図1-12 SUS316LのSO4信号強度とHAW中の硫酸イオン濃度との関係

SO4信号強度は硫酸イオン濃度の上昇に伴い増加しました。これは腐食速度の挙動と相関性があり、SUS316Lの腐食が抑制された要因として、材料表面にできた保護膜の影響が考えられます。

 


東京電力福島第一原子力発電所の使用済燃料貯蔵プールに保管されている使用済燃料は、海水注入により海水環境にさらされ、爆発の影響によるコンクリート等のがれきの付着も予想されます。このため、当該燃料の再処理を行う際、これら不純物の影響を評価する必要があります。これまでの研究により不純物成分は抽出工程において廃液側に移行することが明らかになっています。そこで、不純物が移行・濃縮されると予想される機器として、高レベル廃液貯槽材料の腐食に及ぼす不純物の影響を調査してきました。本研究では、その一環として、海水・コンクリート成分に存在する硫酸イオンに着目した腐食評価を実施しました。

貯槽に使用されるステンレス鋼相当材(SUS316L)を対象とし、模擬高レベル廃液(HAW)中での材料浸漬試験を実施しました。HAWには、硝酸及び模擬核分裂生成物(ルテニウム: Ru、セリウム: Ce、ネオジム: Nd、ネプツニウム: Npの模擬としてバナジウム: V等)が含まれます。

いずれの条件においても全面的に粒界腐食が進展し(図1-10)、その腐食速度は硫酸イオンの増加に伴い減少しました(図1-11)。さらに、腐食速度の抑制率は硫酸イオン濃度の上昇に従い、低下する傾向がありました。試験後の試験片表面をX線光電子分光法(XPS)により分析した結果、硫酸塩が検出されました。図1-12にXPSにより検出された硫酸塩に帰属される信号強度(SO4信号強度)と、溶液中の硫酸イオン濃度の関係を示します。硫酸イオン濃度の上昇に伴い、SO4信号強度は増加しますが、その増加率は低下する傾向を示しました。

粒界腐食が生じた原因は、Ruが主体であると考えられます。Ruは高い価数(8価)まで存在し、腐食に大きな影響を与えることが報告されています。しかし、Ru約0.1 mol/dm3に対して硫酸イオンがその100分の1程度での条件においても腐食速度が大きく低下しており、Ruと硫酸イオンとの相互作用自体による寄与は小さいと考えられます。一方、HAW中における硫酸イオン濃度とXPSにおけるSO4信号強度及び腐食速度との間には相関性が見られます。その結果を踏まえると、硫酸イオンに起因した化合物の材料表面への生成により、溶解反応が抑制されたことが示唆されます。硫酸イオンによる防食効果は塩化ナトリウム(NaCl)水溶液におけるステンレス鋼の孔食に対しても報告があり、本研究においても類似のメカニズムが働いている可能性が考えられます。