1-5 水で冷やさなくてもデブリの取出しはできるのか?

−燃料デブリ空冷評価シミュレーション手法の開発−

図1-9 解析結果の一例

図1-9 解析結果の一例

格納容器にある領域(ペデスタル)の底部に燃料デブリが堆積していると仮定し、燃料デブリの崩壊熱により生じる自然対流による模擬燃料デブリの冷却シミュレーションを実施しました。図中のデブリと空気の色は温度を表します。(a)、(b)より、デブリ周囲に複雑な流れが作られ、空気中へ燃料デブリの熱が移動している様子が分かります。半球状の方がデブリ表面の温度分布は均一になる傾向にあることが分かります。(c)より、燃料デブリ表面温度の平均値は、形状の違いにより表面温度に差が生じます。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)の格納容器下部には、溶けて固まった燃料や構造物(燃料デブリ)が堆積していると考えられています。この燃料デブリは、放射性物質の崩壊熱により発熱しており、その炉外への取出しについて、燃料デブリを水に浸して取り出す冠水工法及び水に浸すことなく気中で取り出す気中工法が検討されています。冠水工法は燃料デブリを確実に冷やしながら取り出すことができますが、格納容器の水漏れの懸念や汚染水発生などの困難な課題があります。一方、気中工法は、水漏れを止める必要がなく、また汚染水が発生しないなどのメリットがありますが、崩壊熱により発熱している燃料デブリを、空気のみで冷やすことができるのかよく分かっていません。このため、燃料デブリを空気のみでどの程度冷やすことができるのか(冷却性能)を、検討できる方法が必要とされています。

燃料デブリの冷却性能を検討するためには、燃料デブリの周りの熱や空気の流れを計算するだけでなく、燃料デブリの位置や形などについても予測する必要があります。現在の1Fにおいて、燃料デブリの位置や形などについて把握し、それらを考慮した空冷評価は困難です。そこで私たちは、燃料デブリの溶融過程とその進展挙動の機構論的評価を目的としたJUPITERという計算コードの開発を行っており、その計算コードを空冷評価に適用し冷却機構の評価を実施しています。

JUPITERによる燃料デブリの冷却性能と、大きな不確かさの一つであるデブリ形状の温度場への影響を評価するため、圧力容器下部の制御棒駆動機構を含む格納容器下部を簡略化した空間に、平板状と半球状の燃料デブリがある条件に対して空冷予備解析を行いました。解析では、崩壊熱による発熱を考慮し、燃料デブリの温度を周囲の空気の温度より高く設定しました。その結果、燃料デブリで熱せられた空気は、周辺の空気よりも軽くなることで上部領域へ移動し、大小の乱れを有する複雑な流れにより空気や燃料デブリの温度が複雑に変化することが分かりました(図1-9(a)、(b))。半球状では、流線形の効果により平板状に比べデブリ近傍で流れやすくなることにより熱伝達が増加し、空気への熱移動量が大きくなるため、デブリ表面温度は比較的低くなる傾向にあることが分かりました(図1-9(c))。これらの結果から、燃料デブリの形状が空冷に影響を与えると考えられ、形状を考慮した評価と空気の流れの考慮が重要であることが分かりました。以上のことから、燃料デブリの冷却性能を、数値シミュレーションにより検討することができる見通しを得ることができました。

今後は、実験結果との比較を行うことでシミュレーション手法の妥当性の確認を行った上で、推定された様々な事故状況を基に燃料デブリの位置や形状を評価します。さらに、この結果を用いて冷却性能の評価を行い、デブリ取出し工法の選定に貢献したいと考えています。