図1-7 格納容器内のドライウェル床面上に広がった溶融燃料のイメージ
図1-8 熱力学的に評価した溶融燃料とコンクリート混合物の凝固時の析出相
東京電力福島第一原子力発電所(1F)では、溶融した燃料が圧力容器底部を貫通し、格納容器内のコンクリート床面上に広がったと東京電力により推定されています(図1-7)。2000 ℃以上と非常に高温な溶融燃料は、接触したコンクリートを溶融させ、浸食します。溶融したコンクリート成分が溶融燃料中に含まれると融点が下がり、固相の割合が増加して、コンクリートの浸食が減速していきます。凝固により生成した物質は燃料デブリと呼ばれ、UO2等の燃料成分とFeやZr等の構造材成分、コンクリート成分の混合物で、複雑な化学形態となっていると考えられます。この燃料デブリを取り出すためには、事前にどの様な性状か、どんな特性なのかを把握しておくことが重要です。このため、実験的なアプローチと解析的なアプローチによりそれらを評価してきました。ここでは解析的アプローチによる成果の一部を紹介します。
解析では、商用の熱力学平衡計算ソフトFactSage6.4と熱力学データベースNUCLEAを使用しました。解析の入力条件としては、1Fから採取されたコンクリートサンプルの分析結果や事故進展の解析結果等を参考としました。
熱力学的に平衡な条件での解析では、溶融物の内部等の非常に緩やかな冷却条件における生成相を評価することができます。この結果、Uは主に立方晶の(U,Zr)O2や(Zr,U)SiO4といった化学形態となることが分かりました(図1-8(a))。また、このほかにステンレス由来の金属相やコンクリート成分由来の酸化物相が生成することが分かりました。溶融物が冷えていく過程では、融点の低い溶融状態のコンクリート成分由来酸化物相中に、(U,Zr)O2や(Zr,U)SiO4が析出していったと考えられます。
これに対し、Scheilモデルという、冷却水との接触等による急冷条件下で生成する化学形を推定する手法を用いると、Uの多くは立方晶の(U,Zr)O2で析出し、このほかに正方晶の(Zr,U)O2の形態で析出することが分かりました(図1-8(b))。
これらにより、燃料デブリを構成する主な化学形は(U,Zr)O2や(Zr,U)SiO4であることや、冷却条件によってこれらの生成挙動が異なること等の知見を得ることができました。これらの知見は実際の燃料デブリの性状と合わせて、事故進展の解明にも活用できると期待されます。今後は、解析的に得られた結果と実験データを比較評価し、より詳細に燃料デブリの性状を推定する予定です。