1-3 重大事故時に放出される放射性物質の性質を予測する

−原子炉内でのセシウムの化学挙動を再現・分析する技術の開発−

図1-6 (U0.5-yPuyZr0.5)O2の昇温時の温度変化の例

図1-6 重大事故時におけるFPの化学挙動再現実験技術(FP放出移行挙動再現実験装置)の開発

重大事故時の炉内高温領域において、Csが経験する一連の化学挙動を再現する装置を開発しています。低温領域への移行に伴うエアロゾル生成・成長挙動や構造材への付着挙動に関して、FP放出移行挙動再現実験装置(左下図)が所期の性能を発揮できることを確認しました。今後は化学挙動に関する実験データの取得とモデル化を進めていきます。

 


東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置に向けた喫緊かつ重要な課題として、燃料デブリの取出し工法の決定が挙げられます。工法の検討には、格納容器とその周辺における主要な放射線源であるセシウム(Cs)の分布と、その分布変化を予測するための化学形態や性質等の性状を同定することが不可欠です。Csは炉心燃料から放出され、圧力容器等の炉内高温領域を経て、格納容器に到達するため、この間にどのような化学反応や物理的挙動をとったかを同定する必要があります。しかしながら、炉内高温領域では、Cs以外の核分裂生成物(FP)のみならず、炉内構造物等に由来する多種多様な核種が時間的・空間的に変化してCsと反応するため、その同定は複雑です。

そこで、この炉内高温領域におけるCsの様々な挙動のうち、格納容器周辺のCs分布や性状に与える影響が大きい化学挙動に着目して、それらを体系的に評価してモデル化するための基礎基盤研究を行っています。構築したモデルは、シビアアクシデント解析コード等に反映することにより、格納容器周辺のCs分布や性状の評価の高度化に資することを目指しています。

この化学挙動の体系的評価のために、炉内高温領域でCsが経験する一連の化学挙動を再現する装置を開発しました(図1-6)。重大事故時の炉内高温領域は、熱流動変化、エアロゾル生成・成長、高温化学反応等が重畳した複雑な条件下にあります。これらの複雑な条件下における化学挙動を評価するために、装置の形状を直管型のシンプルな形状にして熱流動の影響を極力排除することや、オンラインでエアロゾルの計測を行えるようにしてそれらの影響を把握できるようにすることなど、最適な装置設計を行いました。さらに本装置の特長の一つとして、燃料試料が実際に溶融しその際の化学反応等を再現できる2500 Kの加熱が可能であり、これは世界初の試みとなります。

これまでに、非放射性のCs試料を用いて試験を行い、実際の重大事故時に生じるエアロゾル生成・成長挙動を再現できることを確認しました。また、配管に付着したCs試料の分布を分析し、既報の付着分布と同様の結果が得られることを確認しました。これらより、本装置が所期の性能を発揮できることを確認しました。

今後は、本装置を用いて様々な試料や温度条件等における試験を行い、Cs化学挙動に関する実験データを取得してモデル化を進めていきます。