図1-4 圧力容器下部ヘッドの解析モデル
図1-5 圧力容器下部ヘッドの解析モデル
東京電力福島第一原子力発電所(1F)における重大事故によって生じたと考えられる原子炉内外の溶融物(炉心で溶融した燃料と材料)の分布状況等の推定に役立てるため、私たちは溶融物が落下した際の圧力容器下部ヘッドの破損挙動を評価するための研究開発を進めています。重大事故の進展には大きな不確実さが含まれることから、事故の進展シナリオによって下部ヘッドに移行する溶融物の量やその状態は異なるため、これらを考慮できる解析手法の開発が重要です。また、1Fのような沸騰水型原子炉(BWR)の圧力容器下部ヘッドは、多数の制御棒案内管等が貫通しており、構造が複雑であることから、局所的な損傷箇所を推定する手法の開発が必要です。
そこで本研究では、溶融物の挙動を把握するための数値計算に基づく、熱流動解析及び熱流動解析により得られる温度や圧力等を境界条件とする構造解析(熱弾塑性クリープ解析)を組み合わせた熱流動・構造連成解析手法を整備しています。本手法を用いて、クリープ変形に伴う材料の損傷程度を評価することにより、破損箇所や時間の推定を行います。
BWRを対象とした場合に重要となる、制御棒案内管やスタブ管等の貫通部を考慮した三次元モデル(図1-4)を用いて、本手法により解析を行った結果の例を図1-5に示します。これは、溶融物のうち10%が下部ヘッドに落下し、下部ヘッド内の冷却水により冷却され固化した状態を初期状態として解析を行った結果です(1F事故のシナリオとは一致していません)。崩壊熱により、落下した燃料と材料が再び加熱されるため、クリープにより圧力容器等に変形や応力が生じます。クリープ変形による損傷基準を用いて、温度や応力等の影響を考慮して、材料の壊れやすさ(損傷指数)を評価したところ、制御棒案内管やスタブ管といった貫通部で損傷指数が最大となることから(図1-5(b)の赤色部分)、これらの部位が破損することにより、溶融物が原子炉圧力容器外に漏えいする可能性があることが推定されました。また、下部ヘッドに移行する溶融物の量等を変えて予測を行いましたが、同様の結果が得られました。
今後、試験等との比較を通じて、クリープ変形に伴う損傷箇所等の予測精度を向上させるとともに、1Fの圧力容器下部ヘッドにおける漏えい箇所や、炉外における溶融物の分布状況等の推定を目指します。