4-10 中性子線量評価の信頼性を高める校正場の開発

−実際の作業現場の中性子エネルギー分布を考慮した減速中性子校正場−

図4-20 減速中性子校正場の外観

図4-20 減速中性子校正場の外観

黒鉛パイル内部に設置された241Am-Be線源から放出された中性子が黒鉛中で減速され、いろいろなエネルギーの中性子としてパイル表面から放出されます。線源の装荷位置(posA、posB)を変えることにより、異なるエネルギー分布を持つ校正場が利用可能です。

 

図4-21 減速中性子校正場の中性子エネルギー分布

図4-21 減速中性子校正場の中性子エネルギー分布

校正点における中性子エネルギー分布を、計算シミュレーション及びスペクトロメータを用いた測定により評価しました。数MeVから熱中性子にわたる連続的なエネルギー分布を持ち、平均エネルギーは、0.84 MeV(posA)、0.60 MeV(posB)となりました。

 


原子炉施設や加速器施設などの中性子を扱う施設においては、作業者の被ばく管理を目的として中性子サーベイメータや個人線量計が広く利用されています。これらの線量計は、通常252Cfや241Am-Beなどの放射性同位元素(RI)を利用した中性子線源を用いて定期的に校正されていますが、RI線源から直接放出される中性子は、数MeV付近に局在したエネルギー分布を示し、実際の作業場のエネルギー分布とは大きく異なる場合が多いです。中性子線量計の応答は、使用する場所の中性子エネルギー分布に強く依存することから、RI線源を用いて適切に校正を行っていた場合でも、実際の作業場においては、線量を過大または過小評価してしまうことがあります。この問題を解決するのが、中性子線源と減速材を組み合わせることで実際の作業場の中性子エネルギー分布を模擬した校正場(減速中性子校正場)です。作業場に近いエネルギー分布を持つ校正場で線量計を校正することで、作業場における中性子線量をより正確に評価することが可能となります。

原子力科学研究所の放射線標準施設棟では、2個の241Am-Be線源と、当施設の熱中性子校正場で使用されている黒鉛パイルを減速材として用いた新しい減速中性子校正場を整備しました(図4-20)。熱中性子校正場として利用する際は、黒鉛パイルの中心に線源を設置するのに対し、本校正場では、熱化が進んでいない1 eV〜数100 keVの中性子を多く取り出せるよう、黒鉛パイル表面に近い線源装荷孔に線源を設置します。また、線源の装荷位置を変えることで、校正場の中性子エネルギー分布が可変となります。さらに校正点における熱中性子の量を減らすために、黒鉛パイル表面に熱中性子遮へいシート(Gd含有)を設置しました。

計算シミュレーション及び測定により評価された校正場の中性子エネルギー分布を図4-21に示します。原子炉施設や再処理施設などの作業場で見られるような、数MeVから熱中性子にわたる連続的なエネルギー分布を示し、フルエンス平均エネルギーは、0.84 MeV(posA)、0.60 MeV(posB)となりました。さらに、得られたエネルギー分布を基に、校正場の基準量となる周辺線量当量率(H*(10))及び個人線量当量率(Hp(10))を決定し、線量計の校正等を行う上で十分な20〜50 μSv/hの線量率が得られることが確認できました。

本校正場は、原子力機構の施設供用制度の枠組みのもと外部ユーザーへも公開されており、線量計の校正や中性子検出器の特性試験に利用することができます。