図4-11 核データから輸送計算の流れ
表4-2 FRENDYとNJOYの処理方法で作成された断面積ライブラリを用いて求めた実効増倍率の差異
原子炉の設計や炉心解析、遮へい計算、被ばく量評価など、原子力利用の様々な場面で中性子輸送計算コードや放射線輸送計算コードは利用されています。そのため原子力機構では、MVPやMARBLE、PHITSなどの輸送計算コードや、それらの計算で使用される、中性子と原子核の反応確率等のデータベースである核データライブラリJENDLを整備しています。
輸送計算コードで核データライブラリを利用するためには、図4-11のように各輸送計算コードが使える形式(断面積ライブラリ)に変換する、核データ処理と呼ばれるプロセスが必要となります。核データ処理は単にフォーマットを変換するだけでなく、各輸送計算コードで必要とするパラメータを求めるための様々なデータ処理を行う必要があり、核データ処理システムの開発には核データだけでなく、各輸送計算コードに特有の知識も必要となります。そのため、世界的に見ても核データ処理システムの開発はほとんど行われず、数十年前に米国で開発されたNJOYの独占状態でした。我が国でもNJOYが広く利用されていましたが、NJOYではJENDLが適切に処理できないことが多く、国産核データ処理システムの開発は、炉物理・核データ両分野において長年にわたって重要な課題として認識されていました。
私たちはこの課題を完全に解決し、従来よりも高度な核データ処理を実現するため、新たに国産核データ処理システムFRENDYを開発しました。世界中の研究機関でも同様の課題解決に向けた核データ処理システムの開発が進められつつありますが、FRENDYは進捗状況と完成度の高さにおいて諸外国をリードしており、またIAEAの会合への招致や、日本原子力学会の炉物理部会及び核データ部会の部会賞受賞など、国内外で大きな注目を集めています。
表4-2のように、FRENDYでは、核データ処理の妥当性を検証するため、NJOYと同じ核データ処理方法を用いた場合に、NJOYの結果と一致することを確認しております。また、FRENDYでは従来のNJOYの処理方法のみならず、NJOYの処理方法上の問題点を調査・解決した独自の処理方法も採用しており、現在処理方法の違いが輸送計算の解析結果に与える影響について評価を進めております。FRENDYの開発を通じて核データ処理方法を高度化していくことで、輸送計算コードの解析精度のさらなる向上が期待されます。