図4-12 Zrの水素吸収量へのγ線量の影響例
図4-13 Zrの水素吸収量への硝酸濃度の影響例
図4-14 放射線分解水素の吸収挙動の模式図
使用済核燃料の再処理機器では、高温、高濃度で核燃料が溶解した硝酸溶液が扱われます。ジルコニウム(Zr)は、このような溶液に対して高い耐食性を有するために構造材料として採用されています。一方で、Zrは水素を吸収しやすく、これを吸収することで脆化することが知られています。使用済の核燃料が溶解した硝酸溶液中では、ウラン、プルトニウム等から放出される放射線が水分子を分解し水素を発生させることから、再処理機器の健全性を確保するためには、Zrの放射線分解水素の吸収挙動を知ることが重要ですが、硝酸濃度及び放射線の線量との関係はいまだ明らかになっていません。さらに、Zrに吸収された水素がその中でどのような状態となっているのかも明らかではありません。
私たちは、硝酸溶液中におけるZrの放射線分解水素の吸収挙動を明確にすることを目的として、Zrを浸漬した硝酸溶液にコバルトの放射性同位体(60Co)から放出されるγ線を照射する試験を1000時間行いました。水素の吸収量の評価は、試験の後にZrを1000 ℃まで加熱して放出された水素を計測することで行いました。
照射した後のZr中に吸収された水素の平均値は、γ線の線量が3〜5 kGy/hの間で急に増加し、最大では、照射する前と比較して約40倍になりました(図4-12)。さらに、水素の吸収量は硝酸の濃度が高くなるほど少なくなることも分かりました(図4-13)。
吸収された水素のZrの表面から内部にかけての分布を分析すると、硝酸溶液と接する表面に集中して存在していることが明らかになりました。また、その箇所での水素の存在状態を電子顕微鏡で分析すると、Zrの水素化物となっていることが明らかになりました。この結果は、Zrは水素化物を生成しやすいため、吸収された水素がすぐに水素化物となることを示しています。また、表面に水素化物が生成するとその後に吸収された水素は、水素化物を透過してZr内部に移動することが示唆されます。
これらの結果から、γ線照射下の硝酸溶液中でZrが放射線分解水素を吸収することを初めて明らかにするとともに、その吸収挙動、吸収された水素の存在状態とその分布を明確にすることができました(図4-14)。
これらの新たな知見は、再処理機器の長期間運転における水素吸収量の予測及びそれによる脆化予測に活用することができます。また、それにより再処理機器の健全性の確保に役立つことが期待されます。