図4-8 溶融鉛ビスマス合金(LBE)ターゲット容器の概略図
図4-9 LBE流量計測用超音波センサ外観
図4-10 実液流量計測試験結果
使用済核燃料に含まれ、人体に対する有害度や環境負荷が大きい長寿命の高レベル放射性物質を選択的に分離し、大強度の高エネルギー陽子ビームを核破砕標的に入射させて発生した中性子による原子核反応でこれを短寿の物質に変換し、地層処分時の環境負荷低減を目指す加速器駆動核変換システム(ADS)の実現に向け、私たちはADSターゲット試験施設(TEF-T)の設計検討を進めています。TEF-Tは、試験片を封入したターゲット容器(図4−8)へ400 MeV/250 kWのパルス陽子ビームを入射させ、核破砕標的及び冷却材として溶融鉛ビスマス合金(LBE)を循環してADSを構成するT91、SUS316等の候補材料の照射試験を主目的とした実験施設です。LBE流量は、系統内の安全性に影響を与えるビーム窓の冷却性能及び試験片の照射温度に影響を与えるため、誤差10%以下の精度で流量を常時管理する必要があります。高温、高線量環境下で鋼材に対する腐食性が強いLBEの流れを長期間安定的に計測することが難しく、国内外で実用化に向けた研究開発が行われています。この課題解決のため、私たちは不透明な金属材料に対して透過可能な超音波の性質に着目し、ナトリウム冷却高速炉での計測技術開発で培われた知見をもとに、LBEの流量を長期間安定的に計測できる流量計を開発しました。
超音波信号を発振する代表的な圧電素子として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)がありますが、素子単体の耐熱温度が約365 ℃でありLBE標的で想定される温度域(350〜450 ℃)への適用性と照射による影響を受けやすいという問題がありました。この解決策として、開発したセンサ(図4-9)ではLiNbO3を採用しました。LiNbO3は誘電率がPZTに比べ1桁以上小さいですが、約1000 ℃という極めて高い耐熱性と耐放射線性を持っています。小さい誘電率への対策として、センサ前面にLBEとの濡れを確保する液浸プラグを設け、固液境界での信号伝播が阻害される液体重金属特有の問題を解決するとともに、信号伝播経路を直線状にすることで送信信号に対して約50%の強度の受信信号を獲得する効率的な信号送受信を実現しました。
次に、開発した流量計をLBEループに設置し、図4-10に示すようにTEF-T標的で想定する運転条件下(管内流速0.37 m/s、運転時間約4500 h)で安定的(誤差3%以下)にLBE流れを監視可能な技術を世界に先駆けて実現し、TEF-Tへの導入を決定しました。
今後は、開発した流量計を用い、冷却材流量低下事象等の模擬試験データを蓄積し、LBE系統のさらなる安全性向上を図る予定です。