4-8 測定が難しい放射性核種パラジウム-107を定量

−レーザーを使って使用済燃料から高純度のパラジウムを回収し測定−

図4-17 液体試料にレーザーを照射して高純度Pdを回収する原理と操作手順

図4-17 液体試料にレーザーを照射して高純度Pdを回収する原理と操作手順

使用済燃料の溶解液にエタノールを加えパルスレーザーを照射すると、Pdイオン(Pd2+)はエタノールから電子を受け取って電荷を持たないPd原子に変化します。Pdの原子同士は自己凝集し沈殿するため容易に回収することができます。また、試料から離れた場所で操作可能であり、多量の放射性物質を含む使用済燃料でも分析者の被ばくは最小限に抑えられます。

 

表4-3 回収されたPd沈殿への使用済燃料中主要元素の混入率

Pd沈殿中には使用済燃料を構成する主要な元素の混入はほとんどありません。高純度のPdが得られることによって正確な107Pdの定量が実現します。

表4-3 回収されたPd沈殿への使用済燃料中主要元素の混入率

 


パラジウム(Pd)の放射性同位体107Pdは、ウランの核分裂によって生成する放射性核種の一つで、使用済燃料中に存在しています。半減期は約650万年と極めて長く、長期間にわたって放射線を放出し人体に影響を及ぼす可能性があります。従って、その存在量を測定し、107Pdによる放射線の長期的な影響を予測するためのデータを取得する必要があります。しかし、これまで使用済燃料中の107Pdが実際に測定された例がなく、実測値の代わりに理論計算による推定値が使われていました。

107Pdの存在量を正確に測定するには、使用済燃料から純度の高いPdを回収する方法が不可欠です。一般的な分離法である吸着剤を充てんしたカラムを用いる場合は、工程数が多くなり、短時間で高純度のPdを回収することが困難です。さらに、近距離での操作が避けられないため、使用済燃料のような多量の放射性物質を含む試料を長時間取り扱うと、分析者の放射線被ばくが問題となります。その上、試料溶液を密閉容器から取り出して操作することになり、前処理設備を放射性物質で汚染させる恐れがあります。

本研究では、試料に355 nmの波長を持つパルスレーザーを照射してPdを選択的に沈殿分離することにより回収し、使用済燃料中に存在する107Pdを世界で初めて定量することに成功しました(図4-17)。この方法では、約20分のレーザー照射で90%以上のPdを使用済燃料から回収できます。試料の近くで操作する必要がなく、また、密閉したガラス容器内で沈殿生成が完了するため、照射中の被ばくや放射性物質の飛散による汚染の可能性はほとんどありません。

回収されたPd沈殿を王水(塩酸と硝酸の混合液)で溶解し、使用済燃料を構成する主要元素の濃度を誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)によって測定しました。その結果、Pd以外の元素はほぼ検出されず(表4-3)、99.9%以上の純度でPdが回収できたことが分かりました。107Pdの測定妨害元素が完全に除去されたことから、正確な107Pdの定量の実現に至りました。

今後は、我が国が保有する高レベル放射性廃棄物(HLW)への適用が期待されます。HLWは使用済燃料よりも組成を予測しにくいため、本方法の適用範囲拡大に向けて改良を進めています。これらの取組みを通してHLWの107Pd存在量を明らかにし、処分後の安全評価における信頼性向上への貢献を目指します。