6-3 熱利用系を接続した高温ガス炉の負荷追従運転の実用化に向けて

−異なる冷却材圧力での熱負荷変動吸収性を解明−

図6-5 冷却材圧力に対する熱負荷変動吸収性確認試験

図6-5 冷却材圧力に対する熱負荷変動吸収性確認試験

異なる冷却材圧力において、ガス循環機からの入熱により原子炉入口冷却材温度を一定に保持し、空気冷却器を通る加圧水温度に変動を与えました。これにより、原子炉入口冷却材温度に最大30 ℃の変動を与え、冷却材圧力に対する熱負荷変動吸収性を調べました。

 

図6-6 熱負荷変動吸収性に対する冷却材圧力の影響

図6-6 熱負荷変動吸収性に対する冷却材圧力の影響

緑色のデータが高圧の結果、赤色のデータが低圧の結果を示します。原子炉入口冷却材温度の変動に対する出口冷却材温度の応答は、高圧よりも低圧の方が緩やかで変動が伝わりにくく、熱負荷変動吸収性に優れていることが分かりました。

 


電力網が整備されていない遠隔地や開発途上国に、水素製造施設やガスタービン発電システムを接続した高温ガス炉を設置する場合、経済性向上の観点から、熱利用の需要に応じて原子炉の出力を調整する負荷追従運転が必要となります。負荷追従運転では、原子炉出口冷却材温度を一定とし、冷却材圧力により冷却材の質量流量(インベントリ)を制御することで、原子炉出力を調整します。これにより、水素や電力の需要に応じた出力制御により経済性を高める運転が可能となります。

一方、水素製造施設等の熱利用施設は、経済性向上のため、原子炉施設ではなく一般産業施設として設置します。そのため、熱利用施設の異常時に想定される温度変動(熱負荷)が原子炉入口に伝播した場合においても、原子炉出力や原子炉出口冷却材温度が運転上の制限値を超えないことを示す必要がありました。これまでの研究で、定格出力運転時の冷却材圧力が高い状態において、この熱負荷は、原子炉側部の金属構造物の凹凸による伝熱促進効果により吸収・抑制され(熱負荷変動吸収性)、炉側部金属構造物が炉心への急激な温度変動投入を防止する熱負荷の緩衝材として働くことを明らかにしています。これにより、炉心の温度変動に伴う出力調整がスムーズに働き、原子炉出力及び出口冷却材温度は安定します。しかしながら、インベントリ制御時の冷却材圧力が低い状態では、熱伝達率が低下することから、同様のメカニズムが有効に働くか確認する必要があります。

インベントリ制御時の冷却材圧力が低い場合には、@冷却材の熱伝達率の低下によって炉側部金属構造物温度の変動が緩慢になる、A質量流量の低下により冷却材の熱容量が低下し、冷却材の構造物への温度追従性が良くなるという事前の理論評価に基づき、原子炉出口冷却材温度の変動は緩慢になると予測しました。そして、この予測を確認するため、高温工学試験研究炉(HTTR)を用い、異なる冷却材圧力(1.1及び2.5 MPa)のもと、ガス循環機からの入熱により原子炉を加熱した状態で、原子炉入口冷却材温度を約30 ℃変動させ、原子炉の熱負荷変動吸収性に関する試験データを取得しました(図6-5)。

試験の結果、低圧時の熱負荷変動吸収性が高圧の場合に比べて優れていることを確認し、高温ガス炉における負荷追従運転の実現に向け、異なる冷却材圧力での熱負荷変動吸収性を明らかにしました(図6-6)。