8-1 放射性廃棄物の放射能定量手法の開発

−散乱γ線に着目した定量手法の精度向上−

図8-4 散乱γ線のシミュレーション

図8-4 散乱γ線のシミュレーション

Uの子孫核種Pa-234mから放出される1001 keVのγ線によって発生する散乱γ線を、輸送計算コードMCNPを用いて計算しました。クリアランス対象物では、Uは微量のため、遮へい物の組成は鉄とし、また、計算したエネルギースペクトルを、遮へい物がない状態(空気)と比較しました。広い範囲の散乱γ線を合計することで高い計数が得られ、放射能定量の精度が向上します。

 

図8-5 U量が少ない場合の放射能定量での相対誤差

図8-5 U量が少ない場合の放射能定量での相対誤差

重量約200 kgの模擬ドラム缶にU(1〜10 g)を入れて放射能の定量を行いました。NaI検出器(3×5×16インチ)は2台、測定時間は1800秒です。許容する相対誤差を±30%程度とすると、Uの偏りによらず、U 3 g程度、放射能濃度では0.4 Bq/g程度が定量下限値となり、誤差を含めても1.0 Bq/gを下回る放射能濃度が定量可能と考えられます。

 


原子力関連施設の廃止等に伴って発生する解体物は、クリアランスが可能な解体物は再利用するか、放射性廃棄物として処分場に払い出します。このとき、放射能濃度の確認が必要になります。

国内のウラン(U)加工事業者から大量に発生する複雑形状の金属解体物のクリアランスが可能になれば、廃棄物量の低減が期待できます。

複雑形状でもγ線なら透過力が強く測定できますが、Uのγ線放出率は低いため、測定効率を上げることが必要です。半導体検出器は高分解能ですが効率が低く、長時間測定が必要です。そこで測定時間を短縮するため、分解能は低いものの高効率のNaI検出器を使用することが合理的と考えられます。

しかし、解体物の密度と線源偏在によって、γ線の遮へい状態が異なるため、線源が均一に分布していると仮定して定量すると大きな誤差(線源を偏在させた試験では−50〜80%程度)が発生します。このため、エネルギーの異なるγ線(a,b)の測定値から、線源位置までの距離等による減衰を推定しました。Uと検出器の距離をr、クリアランス対象物の線減弱係数をμaμbとすると計数naは、naear/r2で表されます。エネルギーの異なる2本のγ線で、計数比の対数をとると、ln(na/nb)〜-(μa/μbr となりr が計数比で表せます。計数への線源位置の影響は1/r2項が主と考え、r に−ln(na/nb)を代入して、遮へい状態を評価するXgeometryを導出します(等価モデル法)。

 数式

これを用い、複数の線源位置と検出器の平均的な距離を一つの等価な距離で置き換えることができ、既知U量のドラム缶のXgeometryと1001 keVの計数で表される検量線と、測定対象物のXgeometryと計数のプロット点の比較からUを定量することが可能となります。

これまで1001 keVのほかには766 keVのγ線を使用しましたが、放出率が低く放射能定量下限値は4〜5 Bq/g程度(U 40 g程度)でした。クリアランスの確認等のため、低レベル放射能定量の精度向上を目指し、高い計数が得られる散乱γ線の使用を検討しました(図8-4)。シミュレーション結果を反映し、市販装置で、放射能濃度1.0 Bq/g程度以下の線源を偏在させた試験を行いました(図8-5)。線源の偏在等に関わらず、クリアランスレベルの評価に必要な1.0 Bq/gを下回る定量下限値を得ることができました。

等価モデル法のクリアランス測定装置は、2014年度以降、経済産業省資源エネルギー庁「次世代再処理ガラス固化技術基盤研究事業(低レベル放射性廃棄物の除染方法の検討)」で開発しています。