8-11 高速炉燃料の再処理で発生する残渣の性状を理解する

−照射済高速炉燃料の溶解に伴う不溶解残渣の性状評価−

図8-26 (a)燃料溶解の様子と(b)ろ過した残渣

図8-26 (a)燃料溶解の様子と(b)ろ過した残渣

照射済燃料の取り扱いはコンクリートセルの中で遠隔操作により行っています。実験自体は通常の実験室と同様の規模で、硝酸300 ㎖ 程度に溶かし、残渣はガラスフィルタでろ過しています。

 

図8-27 (a)残渣の化学組成と(b)XRD分析結果

図8-27 (a)残渣の化学組成と(b)XRD分析結果

(a)ではある一つの残渣中に含まれる元素の重量割合を示しました。凡例には定量した元素を示しており、「その他」にはそれ以外が含まれます。(b)はXRDのスペクトルです。比較のため、注目される化合物2種の報告値も示しています。

 


原子炉で照射された使用済燃料(照射済燃料)は、ウラン(U)やプルトニウム(Pu)を回収するために再処理をします。再処理では燃料を硝酸で溶解しますが、沈澱や溶け残り等の固体物(残渣)が発生します。残渣が溶解液と一緒にその後の工程に行くと、配管の詰まりや装置の不具合を起こす可能性があるため、残渣がどのように生じるかやその性状を把握しておくことは重要です。特に、高速炉燃料は従来使用されている軽水炉燃料と組成が異なるため、出てくる残渣の特徴も変わりますが、まだ十分な情報が得られていません。

高速実験炉「常陽」の照射済燃料の溶解試験時に発生した残渣の性状評価を高レベル放射性物質研究施設(CPF)で実施しました。「常陽」の照射済燃料ピンを1.5 cm程度に切ったものをフラスコに入れ、硝酸溶液を加えて熱することで、核燃料物質(U、Pu)や核分裂生成物(FP)のほとんどは硝酸溶液に溶けますが、一部は溶けずに残ります。この残渣をガラスフィルタでろ過して回収しました(図8-26)。

いくつかの溶解条件で回収した残渣の元素組成を分析した結果、Pu以外にモリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、白金族元素(ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd))が含まれていました(図8-27(a))。燃料の溶解条件(燃料の種類や硝酸濃度等)の違いは、残渣の組成に大きな影響は与えていませんでした。

X線回折(XRD)の分析結果を図8-27(b)に示します。報告されているMo4Ru4RhPd合金と良く一致したピークが見られました。今回の残渣のうちの一つは、この合金組成にTcが加わったMo4Ru3.7Rh1.1Pd1.1Tc1.2合金と考えられます。

軽水炉燃料の再処理で発生する残渣の研究では、Mo4Ru4RhPd合金に加えて、モリブデン酸ジルコニウム(ZrMo2O7(OH)2(H2O)2)が多く含まれていることが報告されています。このZrMo2O7(OH)2(H2O)2は再処理溶解液を加熱していると沈澱してくる物質で、非常に細かい粒子のため、発生を抑止する必要がありました。しかし、本研究で分析した残渣からはジルコニウム(Zr)が検出されず、またZrMo2O7(OH)2(H2O)2のピークも見られませんでした。Moの多くが合金として残渣になり、溶解液中のMo濃度が低くなったことからZrMo2O7(OH)2(H2O)2が発生しなかった可能性があります。高速炉燃料では軽水炉と残渣の特徴が異なることが分かり、高速炉燃料再処理の開発のため、さらなる残渣の評価を進めていきます。