8-3 地下環境が有する自己修復機能を把握

−断層周辺の地下水の移動経路としての長期変化の検討−

図8-9 瑞浪超深地層研究所の研究坑道レイアウトと深度500?mの割れ目分布

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図8-9 瑞浪超深地層研究所の研究坑道レイアウトと深度500 mの割れ目分布

深度500 mの研究坑道では約2000本の割れ目が坑道壁面で確認され、このうち湧水を伴う割れ目は約10%でした。断層から約60 mまでは割れ目が多く、断層の影響によるものと考えられます。

 

図8-10 断層周辺の地下水の移動経路としての長期変化

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図8-10 断層周辺の地下水の移動経路としての長期変化

断層周辺では、断層の形成に伴い小さな割れ目が増加し透水性が上がりますが、その後の地下水の流入や断層の再活動により長期的には透水性が低下します。

 


高レベル放射性廃棄物の地層処分では、長期にわたる地下水の移動を評価する必要があります。花崗岩などの硬い岩盤では、地下水は割れ目を介して移動します。割れ目の分布や特徴は、長期的には、断層運動に伴う形成・増加や地下水の流入に伴う鉱物の沈殿などの変化があると考えられます。そのため、長期的な地層処分の安全性を評価する上では、断層周辺の岩盤を含めた割れ目の地下水の移動経路としての役割とその変化を理解することが重要となります。そこで、私たちは岐阜県瑞浪市の瑞浪超深層研究所の地下にある研究坑道(図8-9)でボーリング調査や坑道壁面調査を行い、断層周辺の岩盤の地下水の移動経路としての長期的な変化について検討しました。

その結果、割れ目は大きく三つのステージを経て現在に至ると考えられます(図8-10)。ステージ1では、マグマから花崗岩が形成される過程で、岩盤が冷却・固化しつつ割れ目が形成される温度以下となると、比較的大きな割れ目が形成されます。これらは、初期的な地下水の移動経路となります。ステージ2では、岩体冷却後の岩盤の隆起等に伴い断層が形成され、断層周辺に比較的小さな割れ目が形成されます。断層周辺は、この小さな割れ目の形成により個々の割れ目の連結性が増し、透水性が高くなったと考えられます。ステージ3では、断層周辺の透水性が低下します。断層周辺の岩盤は、形成当初は地下水が選択的に流れる領域となりますが、地下水が流れ込むことで、地下水中の成分が割れ目内に沈殿し鉱物が形成され、結果的に約9割の割れ目が閉塞されます。また、形成された鉱物の一部は、地下水との反応による粘土化と断層の再活動による割れ目内の圧力上昇により流動し、未固結の微細な鉱物として大きな割れ目も充てんします。この結果、断層周辺の岩盤全体の透水性が低下します。未固結の微細な鉱物の分布は、海外の地下深部の花崗岩体では報告されておらず、未固結の微細な鉱物の形成による透水性の低下は、我が国の花崗岩体の特徴の一つと考えることができます。

以上のことから、従来、地下水の選択的な移動経路とされてきた断層周辺の岩盤中の割れ目は、地下水の流入や断層の再活動に伴う割れ目の閉塞・充てんといった地下環境が有する自己修復機能によって、長期的には、ほとんどの割れ目で透水性が低下する可能性があることが明らかとなりました。