図8-11 花崗岩中の空隙の例
図8-12 岩石ブロックスケールの拡散試験の結果
花崗岩などの硬い岩盤からなる地下環境では、地下水中の物質は、比較的大きな割れ目の中を選択的に移動しつつ、微小な空隙を介して割れ目周辺の岩盤中に拡散(マトリクス拡散)し、その移動が遅延されます。そのため、マトリクス拡散現象を把握する上では、マトリクス拡散の経路となる連続した空隙の分布を把握することが重要です。これまでに、二次的な風化作用や熱水との反応などによって強い変質を被る花崗岩では、空隙が増加し、マトリクス拡散が促進されることが指摘されています。しかし、岩体の多くを占める割れ目の周辺が変質を受けていないように見える花崗岩(花崗岩健岩部)における、マトリクス拡散に関する知見は十分には得られていません。そこで私たちは、土岐花崗岩を事例として、顕微鏡等を用いて、岩石薄片観察による空隙抽出手法の整備・特徴の把握(図8-11)と、岩石中の物質移動現象の把握のための蛍光染料をトレーサー物質とした岩石ブロックスケールの拡散試験(図8-12)を実施しました。
その結果、空隙は、鉱物中や鉱物間の微細な亀裂(図8-11(a))、劈開に加えて、花崗岩の主要構成鉱物である斜長石中に認められました(図8-11(b))。岩石ブロックスケールの拡散試験の結果、トレーサー物質は主に斜長石中に認められ(図8-12(c))、斜長石中の空隙はマトリクス拡散の経路として機能していることを把握しました。斜長石中の空隙は、その産状から、地下深部でマグマが冷却・固化した際に生成される高温の液体(初生的な熱水)と斜長石が反応(初生的変質)し形成されたと考えられます。以上の知見から、花崗岩体の健岩部には初生的変質によりマトリクス拡散経路が形成され、物質移動の遅延が期待できる可能性があることが見いだされました。
初生的な変質については、我が国の他の地域の花崗岩でも認められていることから、マトリクス拡散に寄与し得る斜長石中の空隙は、花崗岩中に普遍的に存在する可能性があります。今後、我が国の花崗岩におけるマトリクス拡散経路の一般性を検討するため、他の岩体の特徴の把握などさらなる検討を実施していく予定です。