図8-16 幌延深地層研究センターの地下施設のレイアウトと先行ボーリングで確認された断層及び断層の交差関係が観察された坑道壁面の展開図
図8-17 地下施設周辺の鉛直断面図
断層などの三次元分布や形成過程を表現する地質構造モデルは、高レベル放射性廃棄物の地層処分における処分場の設計や安全評価において最も重要な情報です。地上におけるボーリング調査から坑道掘削時における坑道壁面の地質観察といった調査の進展に伴い、新たに得られるデータに基づき地質構造モデルを更新していくことは、モデルの信頼性を向上させるために重要となります。
幌延深地層研究センターの地下施設周辺の稚内層は、新第三紀の塊状な珪質泥岩から構成されます。これまでの調査により、稚内層には層理面に平行な断層(層面断層)とそれに斜交する断層(斜交断層)の2種類の小断層が分布することが明らかとなっています。換気立坑と東立坑のそれぞれの掘削に先行して実施されたボーリング調査(PB-V01及びSAB-1)の結果、幅数mm〜数cm程度の断層ガウジを介在する四つの層面断層と、断層角礫を介在する斜交断層が複数分布することが分かりました(図8-16(a)、(b))。その後、坑道壁面の地質観察を実施した結果、350 m調査坑道の西周回坑道における坑道壁面では、層面断層が斜交断層に切断されている様子が観察されました(図8-16(c))。これは、斜交断層が層面断層の後に形成されたことを示しており、既往研究の解釈と一致します。一方、換気立坑の深度約268 m付近の坑道壁面では、層面断層が斜交断層に切られている箇所は認められず、むしろ、斜交断層が層面断層の近傍で終結する様子が観察されました(図8-16(d))。ボーリング調査と坑道壁面の地質観察によって確認された位置と方向に基づき層面断層を対比させた結果、少なくとも数十m以上の広がりを持つと推測されます(図8-17)。これらの結果から、一定の広がりを有する層面断層が、後続する斜交断層の発達に対して力学的に影響している可能性が示唆されます。
ボーリング調査で得られた点の情報が、坑道掘削時の壁面観察といった面的に広がりを持つ情報により更新され、それに伴い斜交断層と層面断層の形成プロセスといった地質構造の発達過程にかかわる情報も拡充され、より実際の地質構造を反映したモデル構築、ひいては構築したモデルの信頼性向上につなげることができました。