図8-18 EPMAを上から見たときの模式図(日本電子株式会社 製品カタログより転載・一部改編)
図8-19 開発した手法によるCHIME年代測定の結果
堆積物中の鉱物ができた年代を調べることによって、その鉱物がいつ形成され、どこから運ばれてきたのかを推定することができます。このように過去の情報を得ることで、例えば鉱物の供給源の岩体である山地がどのように形成・発達してきたか等の履歴を知ることができます。こうした手法は後背地解析と呼ばれ、高レベル放射性廃棄物の地層処分において過去から現在の地質環境の変遷を明らかにする上で有効な技術の一つです。しかしこれには、大量の鉱物粒子の年代測定が必要となります。
鉱物粒子の年代を調べる手法の一つとして、1991年に名古屋大学で開発されたCHIME(チャイム)年代測定法が挙げられます。CHIMEとは、トリウム-ウラン-鉛化学アイソクロン年代測定法(Chemical Th-U-total Pb Isochron Method)の略です。トリウム(Th)やウラン(U)は時間の経過とともに一定の時間で別の元素に変化し(放射壊変)、最後に鉛(Pb)になります。元素の同位体比測定を必要とする従来の手法とは異なり、CHIME年代測定法では鉱物に含まれるTh、U、Pbの量を量ることで、鉱物ができた年代を推定することができます。Th、U、Pbの量の測定には、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)という分析装置を使います。EPMAは、電子線を試料に当て、その際に試料から発生するX線の波長から、含まれる元素の種類を調べることができる装置です。また、このX線の強度を測定することで、元素の量を調べることができます。
本研究では、このCHIME年代測定を行う際に従来とは異なるH形分光器(図8-18)という分光器(EPMAの中でX線を波長ごとに分けて測定する役割を担う部分)を用いて、従来の半分以下の時間で鉱物の年代を測ることに成功しました。H形分光器の弱点である波長分解能(波長の近いX線をどのくらい区別して測定することができるか)の低さは、妨害X線の影響を除去する補正計算(干渉補正)によって補いました。この処理で必要な干渉補正係数という値を算出する際に、天然のモナザイト(Th、Uを含む天然鉱物の一種)の分析データを用いて計算したのもこの研究が世界で初めてです。
既に年代が得られているモナザイトを測定し、この手法の有効性を確認したところ、既往研究の年代値と相違ない結果が得られました(図8-19)。このことから、大量の鉱物粒子の迅速な年代測定の実用化の見通しが得られました。