図8-20 泥岩中における粘土を主体とした拡散モデルの概念図
図8-21 泥岩中のNi、Am、Seの実効拡散係数と収着分配係数の実測データとモデル化結果の比較
岩石中の放射性核種の収着・拡散は、放射性廃棄物の地層処分の長期安全性を評価する上で重要な現象です。安全評価において考慮すべき多様な地質及び地下水条件に対する信頼性の高い収着・拡散パラメータを設定するためには、岩石中の収着・拡散の現象理解に基づく定量的な評価モデルを構築する必要があります。幌延深地層研究センター(幌延URL)の泥岩中の拡散・収着現象を説明するため、これまでに粘土成分の拡散・収着への支配的な寄与を仮定したモデル化手法を、単純なイオン(Cs+、I-)を対象に検討してきました。本研究では、より複雑な化学種としてNi(II)、Am(III)及びSe(IV)を対象に、幌延URLの泥岩中の収着・拡散挙動を、実験とモデル化の両面から評価しました。
透過拡散試験により得られた実効拡散係数(De)は、圧縮粘土中において従来から観察されている陽イオン加速、陰イオン排除の傾向を示したことから、粘土を主体とした拡散モデルによる評価を試みました。ナノX線CTや水銀圧入法によって得られた鉱物や間隙の分布(図8-20(a)、(b))に基づき、泥岩中に均質に存在する粘土マトリクス中のナノサイズ間隙(粘土層間及び層間以外のナノサイズ間隙)中で生じる静電的相互作用によって、拡散現象が支配されると仮定しました。この粘土マトリクスは層間水を含まない非膨潤性のイライト、層間水を含む膨潤性のスメクタイトから構成されます(図8-20(c))。負に帯電した粘土表面におけるイオン濃度分布と電粘性効果を電気二重層理論により表現し、単純な間隙形状とサイズ分布を仮定した間隙モデルを組み合わせて拡散モデルを構築しました(図8-20(d))。拡散試験条件下における支配化学種はNi2+、Am(CO3)2-、SeO32-と想定されます。拡散モデルによって、陽イオン加速と陰イオン排除の効果を含むDeの傾向性(Cs+ > Ni2+ > HTO > I- > SeO32- > Am(CO3)2-)及びその塩濃度依存性をおおむね表現可能なことを確認しました(図8-21(a))。同図に破線で示すように、層間の陽イオン加速への寄与が大きく、Deのモデルと実測の差異は、陽イオンの層間での拡散挙動がイオン種や塩濃度で異なるためと考えられます。
収着分配係数(Kd)は、バッチ収着試験と拡散試験で整合する結果が得られ、岩石中の粘土鉱物(イライト及びスメクタイト)の含有率から計算される収着サイト容量、収着反応モデルパラメータ(イオン交換、表面錯体)を考慮した収着モデルによる評価を試みました。この粘土鉱物が収着に支配的に寄与することを仮定した加性則モデルによって、実測されたKdのpH依存性をおおむね表現できました(図8-21(b))。
これらの結果から、幌延URLの泥岩中における様々な核種の拡散・収着挙動は、粘土のナノサイズ間隙中での静電的相互作用、粘土鉱物への収着反応によって支配されることが確認されました。粘土を主体としたモデル化アプローチは、粘土を比較的多く含む泥岩のような岩石においては有効な手法になると考えられます。