8-9 TRU廃棄物処分施設の長期力学挙動を評価する

−人工バリア材料の化学的変遷を考慮した力学解析手法の開発−

図8-22 TRU廃棄物処分施設の概念

図8-22 TRU廃棄物処分施設の概念

上図は、TRU廃棄物処分施設の全体を示した鳥瞰図、下図は、緩衝材を使用した処分坑道の断面図です。

 

表8-1 評価モデルで考慮した事象及びプロセス

解析手法に組み込んだ事象・プロセスを示します。

表8-1 評価モデルで考慮した事象及びプロセス

 

図8-23 開発した力学解析手法での解析結果

図8-23 開発した力学解析手法での解析結果

開発した解析手法での解析結果の一例で、処分施設下部の緩衝材厚さの変化量を示します。緩衝材の変質として、Ca型化及びスメクタイトの溶解を考慮しました。

 


原子力発電所の使用済燃料の再処理や混合酸化物燃料の製造の際に発生する放射性廃棄物のうち高レベル放射性廃棄物を除いたものは、超ウラン元素を含むことから、TRU廃棄物と呼ばれています。TRU廃棄物のうち放射能濃度の高いものについては、生活圏から長期に隔離するために地下300 m以深の安定な地層への処分が考えられています。処分施設には、構造材にコンクリートやセメントモルタル(セメント系材料)を、緩衝材には締め固められたベントナイトを使用することが考えられています(図8-22)。処分の安全性を評価するために、処分施設において生じる事象やプロセスを考慮し化学、力学及び水理学などの観点から処分施設の状態変遷を評価し、地下水の移動を抑制する緩衝材の厚さや処分施設周辺の地下水流速を求め、放射性核種の処分施設からの移行評価に反映させる必要があります。私たちは、処分施設の建設・操業期間から施設閉鎖後長期にわたる力学挙動を評価するために、セメント系材料やベントナイト系材料などの人工バリア材料の化学的変遷を考慮した解析手法を開発しました。

考慮した事象及びプロセスを処分施設・操業期間(〜100年程度)において生じるものと、処分施設閉鎖後において生じるものとに整理し(表8-1)、解析手法を開発しました。処分施設閉鎖後では、地下水が施設内に浸潤しコンクリート支保工や覆工のCa成分が長い期間をかけて、地下水に溶出していきます。これにより、コンクリートの強度が低下し、コンクリートの成分が溶出した地下水は、高いアルカリ性を示します。この地下水は、Ca濃度が高く、緩衝材に接触するとベントナイトがCa型にイオン交換します。さらに、ベントナイト中の膨潤性鉱物であるスメクタイトが溶解して変質していくことが考えられます。これにより緩衝材の膨潤性が低下する可能性があります。ここでは、人工バリア材料の化学的変遷が10万年まで線形に生じると仮定し、開発した手法を用いて行った解析結果(処分施設下部の緩衝材厚さの変化量)を示します(図8-23)。緩衝材の変質を考慮した場合は、ベントナイトの膨潤性能が低下するため、緩衝材の変質を考慮しない場合に比べ、2 cm程度変位量が大きくなることが分かりました。

今後は、より現実的な解析として、数値解析によって得られる詳細な化学的変遷の情報を反映して処分施設の力学挙動解析を行っていきます。