3-1 核分裂における原子核の様々なちぎれ方を捉える

−放射性物質の毒性低減技術に貢献−

図3-2 核分裂と中性子放出の競合

図3-2 核分裂と中性子放出の競合

高いエネルギーを持った240Uは核分裂することもありますが、中性子を放出して239Uになることもあります。この二つの過程は原子核のエネルギーが低くなるまで続きます。これにより、高エネルギーの核分裂では複数の原子核が関与するため、混在して観測されます。それらを分離できないことが問題となっていました。

 

図3-3 高エネルギーの核分裂におけるちぎれ方

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図3-3 高エネルギーの核分裂におけるちぎれ方

●は励起エネルギーE*= 40〜50 MeVを持った240Uを合成したときに観測されるちぎれ方です。0〜5個の中性子を放出することにより235-240Uの六つの原子核の核分裂が混在しています(破線:0n〜5n)。足し合わせると線のようになり、実験データを良く再現しています。

 


原子力エネルギーの利用により、燃料であるウランより重い原子核が作り出され、放射性のゴミとしてその処理が問題となっています。これらの原子核は、軽水炉のような低いエネルギーの中性子では核分裂しませんが、より高いエネルギーの中性子を当てることで核分裂を起こして壊すことができます。この場合、軽水炉での核分裂とは異なり、原子核は核分裂する前に高いエネルギーを持っています。このような核変換の方法を実現するためには、高いエネルギーでの核分裂メカニズムを理解する必要があります。

核分裂は原子核が変形して、やがて二つの軽い原子核にちぎれる現象です。その過程を調べるためには、二つの原子核の質量がどのようなバランスでちぎれたか(ここでは“ちぎれ方”、専門用語では核分裂質量分布と呼ぶ)を観測することが重要になります。しかしながら、高いエネルギーを持った原子核のちぎれ方は、実験的に困難なことからこれまで調べられておらず、したがって高エネルギー核分裂のメカニズムもよく分かっていません。

本研究では、原子力機構タンデム加速器施設において、ウラン238標的に酸素18ビームを照射する実験を行い、様々な原子核を合成し、それらのちぎれ方を広いエネルギー領域にわたって取得しました。高いエネルギーを持った原子核は核分裂して壊れることもありますが、中性子を放出して少しエネルギーが低い別の原子核になることもあります。図3-2の例では、高いエネルギーを持ったウラン-240(240U)がいくつもの中性子を放出しています。240Uをつくったとしても、観測される核分裂には240Uのみならず、239U、238U、237Uなどの多くの核種が寄与することになります。したがって、図中の枠内に示したようなそれぞれの原子核のちぎれ方が混在して観測され、これらを単独で抽出することができません。これが先述の実験的な困難の理由です。

私たちは、動力学モデルと中性子放出の効果を組み合わせることで、それぞれの核種の核分裂の寄与を分離することに成功しました。図3-3はその一例です。本研究により、240Uで観測されたデータは始めには高いエネルギーを持っていたものの、実際は破線で示した6核種の核分裂のちぎれ方の足し合わせであることが初めて明らかとなりました。本成果は、高いエネルギーを持った原子核のちぎれ方(図3-3の例では– – –線で示した240Uのちぎれ方)を初めて得たものであり、高エネルギー核分裂研究の道を拓いたといえます。今後は即発中性子などのメカニズムに深く関与している物理量も併せて観測し、核分裂の理解を進めたいと考えています。このような研究は、未知の核種・エネルギー領域における核分裂データの評価に指針を与え、核分裂を利用した放射性物質の毒性低減のための核変換技術へ貢献することが期待されます。

本研究は、文部科学省の原子力システム研究開発事業「高燃焼度原子炉動特性評価のための遅発中性子収率高精度化に関する研究開発」の助成を受けました。