3-2 タンパク質で金属から身を守る?

−ゾウリムシ細胞表面の水溶性糖タンパク質と重金属の結合−

図3-4 ゾウリムシ細胞へのUの吸着

図3-4 ゾウリムシ細胞へのUの吸着

上図は生細胞中のリン(P)とウラン(U)、下図はあらかじめ薬品処理して死滅させた細胞のPとUです。Uの水溶液にゾウリムシ細胞を入れた後、micro-PIXEという陽子線ビームを使った非破壊元素分析法により細胞の元素分布を測定しました。細胞自体の分布は、細胞の主要元素であるPで示しています。

 

図3-5 ゾウリムシ細胞表面の糖タンパク質とUの結合

図3-5 ゾウリムシ細胞表面の糖タンパク質とUの結合

細胞全体を覆う糖タンパク質にUが結合した後に細胞から溶け出す、または溶け出た糖タンパク質にUが結合することにより、細胞へのUの吸着が減少すると考えられます。

 


環境中には様々な微生物がいます。放射性核種を含む金属元素が地質・水環境中を動くとき、バクテリアなどの微生物が、細胞の表面に金属元素を吸着する、細胞から分泌するリン酸イオンにより金属元素のリン酸塩をつくる、といった微生物特有の作用をすることが知られています。バクテリアは、土壌や環境水中ではそれらより大きい生物と生態系を形成しています。ミドリムシ、アメーバ、ゾウリムシ等の原生動物は大きさが十〜数百µmの単細胞微生物で、一般的にバクテリア等を捕食するので、バクテリア等の生息数をコントロールしています。本研究では、これまでほとんど検討されていなかった原生動物と金属元素の反応を調べました。

本研究では、淡水に生息する代表的な原生動物であるゾウリムシと水溶液中のウラン(U)の反応を調べました。ゾウリムシの生細胞に吸着したUはほとんど検出できませんでしたが、あらかじめ薬品(細胞固定液)で死滅処理した細胞にはUが検出されました(図3-4)。この違いが生じる理由を明らかにするため、実験後の水溶液を分析したところ、ゾウリムシから分泌された有機物に一部のUが結合していたことが分かりました。この水に溶け出た有機物を分離・濃縮して特性を調べたところ、分子量約25万の非常に大きい糖タンパク質であることが分かりました。

ゾウリムシの細胞表面は、水に溶けやすい糖タンパク質で覆われています。この糖タンパク質の分子量は25〜30万程度であり、これらの特徴は、本研究でUと結合した糖タンパクの性質と一致します。このことから、U水溶液に入れたゾウリムシ生細胞にUが検出されなかったのは、Uが結合した表面糖タンパク質が細胞から離れて水に溶解したためであること(図3-5)及びあらかじめ薬品で死滅処理した細胞でUが検出されたのは、薬品によって表面タンパク質が細胞に固定されていたので、そこにUが吸着したためであると考えられます。

ゾウリムシは金属元素に敏感で、耐性が低いことが知られています。ゾウリムシ細胞表面の糖タンパク質の役割は解明されていませんが、金属の毒性から身を守る手段なのかもしれません。

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(C)(No.25420910)「微生物の食物連鎖末端における持続的アクチノイドリン酸塩形成に関する研究」の助成を受けたものです。