3-4 磁気揺らぎとともに現れるウラン化合物の超伝導

−高圧下磁化測定が明らかにした磁気揺らぎと超伝導の関係−

図3-9 UGe2の温度―圧力相図

図3-9 UGe2の温度―圧力相図

UGe2は、常圧(〜 0.1 MPa)で転移温度54 Kの強磁性体です。圧力を加えると転移温度は減少します。約1.0〜1.5 GPaでは、低温で超伝導が現れ強磁性と共存します。

 

図3-10 UGe2の強磁性揺らぎと超伝導転移温度の圧力変化

図3-10 UGe2の強磁性揺らぎと超伝導転移温度の圧力変化

(a)強磁性揺らぎのエネルギーと超伝導転移温度は、1.2 GPa近辺で最大となります。(b)ウラン化合物の内部で、強磁性の揺らぎが高圧下で増大するイメージ図です。揺らぎが超伝導出現に重要な役割を果たします。

 


超伝導はある温度以下で電気抵抗がゼロになる現象で、リニアモーターカーなど実用面で応用されています。一般に、超伝導は強磁性と相性が悪いと考えられ、多くの超伝導体では、磁場を加えていくと超伝導が阻害されてしまいます。ところが、今回研究したウラン化合物UGe2は大気圧下(〜0.1 MPa)で強磁性転移温度54 Kの強磁性体ですが、圧力を加えていくと転移温度は減少し、約1 GPa以上の高圧下で、強磁性と超伝導の二つが同時に現れます(図3-9)。なぜ超伝導が現れるのか? その仕組みは分かっていませんでした。

ウラン化合物は核燃料物質であるため取扱いが難しく、また高圧下の磁気特性を調べることも十分にはできていませんでした。そこで私たちは、原子力科学研究所・第4研究棟の施設に、世界でも例の少ない10 GPaまで高圧下磁化を高精度に測定できる圧力発生装置を製作しました。また、純度の高いウラン化合物UGe2の単結晶を作成し、これを用いてUGe2の高圧下の磁気特性を詳細に調べました。

ウラン化合物において、強磁性と超伝導を担うのはU原子の5f 電子です。電子は自転していて電子自身が磁石のようになっています。強磁性状態では、この磁石の方向が一方向に揃っています。しかし、有限温度では、微妙に磁石の方向や大きさが物質内部で変動しています。これを強磁性揺らぎと呼んでいます。実験では、UGe2の高圧下磁化を精密に測定し、理論解析から強磁性揺らぎのエネルギーを調べました。1.0 GPa以上で超伝導転移温度が大きくなり始め、1.2 GPa近辺で最大値を示し、その後減少していきます(図3-10)。強磁性揺らぎのエネルギーも類似の振る舞いを示します。従来の超伝導では、電子とイオンの相互作用を通して、二つの電子がクーパー対と呼ばれるペアを作り超伝導になります。今回の結果から、UGe2の超伝導は、強磁性揺らぎがクーパー対形成に重要な役割を果たす、新しいタイプであると考えられます。

この研究成果により、強磁性超伝導の機構解明が期待されます。また、ウラン系強磁性超伝導体は磁場に強い特徴があります。磁場に強い超伝導線材等、新しい超伝導材料開発への発展が期待されます。

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(C)(No.16K05463)「先進的な高圧下物性測定技術によるウラン強磁性超伝導物質の研究」の助成を受けたものです。