3-3 J-PARCの加速器実験で新種の二重ラムダ核を発見

−17年ぶり2例目、写真乾板中から顕微鏡で探索−

図3-6 実験に用いた写真乾板(現像後)

図3-6 実験に用いた写真乾板(現像後)

大きさは約35 cm四方、厚みは約0.6 mmです。この中に、実験で生成した二重ラムダ核事象が、写真像として記録されています。

 

図3-7 写真乾板を解析する光学顕微鏡

図3-7 写真乾板を解析する光学顕微鏡

制御ソフトウェア、画像認識は、私たち実験グループが独自に開発しました。

 

図3−8 発見された二重ラムダ核

拡大図(71kB)

図3−8 発見された二重ラムダ核(美濃事象と命名)

(a)写真乾板中の像の顕微鏡写真、(b)反応過程の各ステップの模式図と、同定された粒子名です。①ではグザイマイナス粒子が乾板注の原子核に吸収され、二重ラムダ核を含む三つの荷電粒子に核分裂しました。その後②と③では、二重ラムダ核内のラムダ粒子が一つずつ順に崩壊しました。pは陽子、Hは水素の同位体のうちのいずれかです。

 


J-PARCの加速器実験で、17年ぶり2例目となる、新種の二重ラムダ核を発見しました。二重ラムダ核とは、ラムダ粒子を2個含む特異な原子核です。通常の原子核は陽子と中性子から成り、これらはクォークの種類でいえばアップクォークとダウンクォークの2種類から構成されています。一方、ラムダ粒子は陽子や中性子と同属の粒子ですが、3番目のクォークであるストレンジクォークを含むのが特徴です。

二重ラムダ核の研究は、現代のハドロン原子核物理において、再重要課題の一つと位置づけられています。二重ラムダ核の質量の測定によって、ラムダ粒子間に働く力の強さを測定することができます。これは、「物質の最小単位であるクォークがどのような相互作用でハドロン、原子核という階層構造を形成するのか」を理解する上で重要な情報です。

私たちは、過去最大の規模となる二重ラムダ核検出実験をJ-PARCの加速器を使って行いました。2000年代までに検出された二重ラムダ核事象はわずか9例程度しかなく、そのうち核種が同定できたものは2001年に発見された1事象(ヘリウム6二重ラムダ核)のみでした。そこで私たちは異種核種の事象を検出するべく、過去の10倍の規模の実験を計画し実行しました。

検出器として用いたのは、図3-6のような写真乾板です。これは二重ラムダ核検出の実績がある唯一の手法で、その生成と崩壊の様子を写真像として記録します。実験ではこの乾板を約1500枚用い、図3-7のようなコンピュータ制御の光学顕微鏡システムを使って事象探索・解析をしました。

私たちは、現在までに11例の二重ラムダ核事象を検出しました。検出された事象は画像処理によって三次元の構造を0.1 μm単位の精度で再構成し、さらに物理学的な解析を行いました。

その中の一例は、図3-8に示すように、ベリリウムの二重ラムダ核と同定し、美濃事象と命名しました。そして、放出された核分裂片が飛んだ距離をもとに、核分裂のエネルギーと二重ラムダ核の質量を測定しました。こうして史上2例目となる二重ラムダ核の質量データが得られました。ラムダ粒子間の力は引力であることが分かっていましたが、今回の測定でもそれが裏付けられました。なお、このデータの理論計算との比較については、現在、議論の最中です。

実験の解析は継続中で、今後も新核種の発見が期待できます。本研究は、6ヶ国の24機関から成る国際共同実験(J-PARC E07 実験)により行われました。