4-1 原子核物理で廃棄物の有害度低減研究に貢献

−重陽子による核変換を理論計算で高精度に予測−

図4-2 DEURACSでの計算のイメージ

図4-2 DEURACSでの計算のイメージ

従来手法(CCONE)では一つの生成経路しかありませんが、重陽子の分解を考慮したDEURACSでは経路が三つあります。

 

図4-3 ジルコニウム93標的に210 MeVの重陽子を照射した際の種々の原子核の生成断面積

図4-3 ジルコニウム93標的に201 MeVの重陽子を照射した際の種々の原子核の生成断面積

●が実測値、線がDEURACSの計算値、線がCCONEの計算値、をそれぞれ示します。なお、図中のZは生成された原子核の原子番号を示します。

 


原子力発電所などで生じる放射性廃棄物の有害度低減は重要な課題です。この課題の解決に向け、放射性廃棄物の一種である長寿命核分裂生成物(LLFP)を安定若しくは短寿命な原子核へと変換して有害度を低減させる「核変換処理」の方法として、陽子などの粒子をLLFPに照射し、そこで起きる核反応を利用するものが提案されています。

近年、この際に照射する粒子として重陽子を用いると陽子などの他の粒子を用いたときよりも核変換処理の効率が良くなることが示唆され、注目されています。最適な照射条件の探索など、重陽子を用いた核変換処理法に関する詳細な検討をする上では、重陽子が引き起こす核反応によってLLFPがどのような原子核にどれだけ変換されるのか、様々な条件において事前に予測しておくことが不可欠です。

しかしながら、これまではその予測精度は高くありませんでした。これは、重陽子は陽子と中性子が緩く結びついた粒子であるため容易に分解するにもかかわらず、従来の核反応計算システム(例:CCONE)では主に陽子や中性子による核反応が対象とされており、分解の効果が考慮されていなかったためです。そこで、本研究では、重陽子が陽子と中性子に分解する効果を厳密に考慮した計算ができるよう、これまでに開発してきた重陽子用の核反応計算システムDEURACSを改良しました(図4-2)。そして、計算値を実測値と比較することで予測精度を検証しました。

図4-3にLLFPの一つであるジルコニウム93にエネルギー210 MeVの重陽子を照射した際の、種々の原子核の生成断面積(その原子核の生成されやすさを示す量)に関する結果を示します。図には理化学研究所RIビームファクトリーでの最新の実測値、DEURACSの計算値、従来のCCONEの計算値を示しています。図の通り、DEURACSは数多くの原子核の生成を精度良く予測しています。また、パラジウム107に重陽子を照射した場合についても同様に、DEURACSは実測値を良く再現しました。このことから、DEURACSは重陽子による核反応からの種々の原子核の生成メカニズムを適切に反映していると考えられ、実測値がない範囲を含む様々な条件において高精度の予測ができると期待されます。

本研究によって、今後、重陽子を用いた核変換処理法の研究が大きく前進すると期待されます。さらに、重陽子照射による医療用の放射性物質の製造や、重陽子加速器施設における放射性物質の発生量の見積りなど、重陽子による核反応が関わる様々な分野への貢献も期待されます。

本研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化(藤田玲子プログラムマネージャー)」の成果の一部です。