図5-2 J-PARC高周波駆動型負水素イオン源の構造図
図5-3 2018年のJ-PARC高周波駆動型負水素イオン源より引き出されたH-ビーム電流のトレンド
J-PARCでは、物質・生命科学実験施設(MLF)で1 MWという世界最高レベルの大出力ビームを発生するために、イオン源から繰り返し周波数25 Hz、パルス幅0.5 ms、60 mAのH-ビーム電流を安定に連続して引き出すことが必要です。
2014年夏まで、私たちは熱陰極が放出した高速電子でプラズマを生成する熱陰極放電型負水素イオン源を用いてH-ビームを生成していました。しかし、このイオン源では、ビーム電流量が最大17 mA、連続運転時間が最長約1200時間でした。そこで、ビーム電流の大強度化、イオン源の長時間運転化を図るために、高周波で加速した電子でプラズマを生成する高周波駆動型H-イオン源(RF-IS)の開発に着手しました。図5-2にJ-PARCで用いているRF-ISを示します。
RF-ISでは、セシウム(Cs)をイオン源プラズマ容器(PCH)内に導入し、H-ビームを引き出すために-50 kVの高電圧を印加するプラズマ電極(PE)での表面生成によるH-生成量の増大化を行っています。私たちは、この効果の高効率化のために45°のテーパー付きの構造のPEの開発、Cs蒸着量最適化のためのPE表面温度制御などの研究開発の結果、2018年に最大72 mAのH-ビームをリニアックに入射しました。
一方で、RF-ISには高周波アンテナ破損による寿命の問題がありました。私たちは、ビーム運転中にイオン化したPCH内の不純物(質量の大きい原子)のアンテナ表面への入射によりアンテナが破損すると考えました。そこで、より高真空環境を作るために、ビーム運転前に短時間のプラズマ生成と真空排気を数回繰り返すことで、PCH内壁に付着した不純物を除去(プレコンディショニング)した結果、アンテナ破損率をこれまでの3分の1以下に低下することに成功しました。このプレコンディショニング法確立によりアンテナの長寿命化が図れ、RF-IS実用化に大きく前進しました。
図5-3に2018年のJ-PARCでのRF-ISより引き出されたH-ビーム電流を示します。私たちは4月中旬から7月初旬まで約3ヶ月(2201時間)の連続運転に成功しました。また、7月にはMLFに1 MWビーム供給の実証試験が実施され、1時間の連続運転でのビーム供給に成功しました。同年秋よりイオン源から60 mAのH-ビームをリニアックに連続供給しています。