図5-17 (a)レーザコーティングのイメージ図及び(b)、(c)放射光透過イメージング法で計測した先端付近の様子
図5-18 レーザ照射中のチタン球が溶融する様子
レーザコーティングとは、金属基板上に異種金属をレーザを利用しコーティングする溶接技術の一つです。本技術により、コーティングされる前の金属基板が持ち合わせていなかった特性(例えば、硬さ、熱伝導、電気伝導など)を付加することができることから、次世代工業部品・製品製造のための高強度化、長寿命化、軽量化、低コスト化、省エネルギー化等への貢献が期待できます。
図5-17(a)は、レーザコーティングのイメージ図です。コーティングされる金属粉は基板に向かって噴射され、基板近傍に斜めに照射されたレーザの中を通過した際に、金属粉は固体から液体状態となります。この液体状態の金属粉が、基板若しくは金属粉により形成された溶融池に衝突し、基板上に金属の皮膜が形成されます。このとき、レーザと金属粉、または基板のいずれかを走査することでコーティングすることが可能となります。
レーザコーティングには、コーティング厚さの制御、空隙のような欠陥をなくす(減らす)、できるだけひずみを小さくする、異種材料をコーティングするなどの課題があります。これらの課題を解決するためには、レーザコーティングしている瞬間を観察する必要があります。
本研究では、まず、レーザコーティングにおいて金属粉がどのようにコーティング膜を形成していくのかを、放射光イメージング法により観察しました。実験は大型放射光施設SPring-8の原子力機構専用ビームラインBL22XUにおいて行われました。図5-17(b)(c)は、コーティング先端部の透過イメージング像です。上空より飛散し、レーザ照射を受けた金属粉がコーティング先端付近に付着します(b)。その1ミリ秒後、先端付近の金属粉はコーティング膜に吸収されたために消えていますが、先端から少し離れた金属粉はコーティング膜に一部吸収されていることが分かりました(c)。その後、2ミリ秒後にこの金属粉は皮膜に吸収されますが、この場所による時間差の要因は、先端部の方が皮膜の温度が高く、「ぬれ」の効果が大きく作用していることが考えられます。
図5-18は、0.2 mmのチタン球の上部よりレーザ照射した際の振る舞いを観察した結果です。測定はいずれも真空中で行っていますが、(a)と(b)では基板の温度が異なっています。基板の温度が室温である(a)では、レーザを3秒照射してもほとんど変化がありません。一方、基板の温度が500 ℃である(b)では、時間とともに基板に広がっていくことが分かります。つまり、基板の温度が高いほど金属球は広がりやすいということになります。
以上の測定から、図5-17の場所による金属粉の皮膜への吸収の違いが、皮膜の温度差によるものである可能性を見いだしました。この結果から、良質なコーティングを行う条件の一つとして、金属粉を噴射する場所をできるだけ先端に集めると良いことを明らかにしました。
今回の成果は、X線可視光変換ユニットと色調重視のカメラではなく、時間分解能重視のハイスピードカメラを使用することで、得ることができました。今後、この計測技術を活用することで様々な材料における現象解明、最適条件の導出に寄与し、コーティング技術の高度化、実用化に貢献していきたいと考えています。