図6-2 軽水炉使用済燃料の潜在的有害度
図6-3 提案する核燃料サイクルの概要
図6-4 提案核燃料サイクルで生じる廃棄物の潜在的有害度
原子力発電で生じる廃棄物処分の安全性は、公衆被ばくを制限し確保されます。さらに、社会的受容性の観点から、潜在的有害度の低減が重要です。潜在的有害度は廃棄物中の放射性核種を全て経口摂取した際の被ばく線量として定義され、低減の目標値は核燃料製造に必要とした天然ウラン(U)の有する線量以下とされています。つまり、廃棄物の放射性毒性を、元々自然界に存在した毒性の総量以下に保つという考え方です。
核燃料の放射性毒性は発電に用いることで一旦増加し、その後核種の崩壊により減衰していきます。自然に減衰して天然Uの線量以下になるには、プルトニウム(Pu)では10万年、マイナーアクチノイド(MA:Np, Am, Cm)であるAmでは3千年程度かかるため(図6-2)、低減期間の短縮が課題となっています。
これまで、高速炉や加速器駆動核変換システム(ADS)を用いて、低減期間300年を目標とした開発が行われてきました。本研究では、熱中性子炉である高温ガス炉を用いた低減期間の短縮に取り組みました。一般的に、MAの核変換による低減期間短縮は、ADSも含め高速炉体系のみで可能であると考えられていました。Pu増殖に向かない熱中性子炉の方がTRUに関しても蓄積しにくい特性を見いだすことで、炉心設計及びサイクル諸量評価の検討により高速炉体系と同様の超U元素(TRU:PuとMA)の多重リサイクルが可能なことを示し、世界で初めて熱中性子炉を用いて低減が長期間に及ぶTRU核種を、発電への使用と再処理からなる燃料サイクル内に閉じ込める概念を確立しました(図6-3)。さらに、熱中性子炉体系の持つ、負の反応度係数、大きな遅発中性子割合、黒鉛構造材による冷却材喪失事故時の高い除熱性能など、高温ガス炉固有の安全性を活かすことができます。
廃棄物(Sr-Cs廃棄物、ガラス固化体、劣化U)の潜在的有害度に関しては、経口摂取線量の評価により、図6-4に示すように、潜在的有害度低減期間が300年以内に短縮されていることを確認しました。処分場専有面積の評価では、その廃棄物減容の効果を確認するため、軽水炉廃棄物処分に準拠した代表的再処理シナリオと比較し、専有面積を1/300にすることができます。このように、高温ガス炉を用いて、高速炉・ADSと同等の低減期間が実現可能であることを示しました。今後は、提案サイクルの経済性を評価していく予定です。