図4-2 原子核のγ線吸収と光子強度関数の関係
図4-3 139Laの異なる中性子多重度を持つ断面積の比較
光核反応は原子核に高エネルギーのγ線を照射したときに起こる現象であり、この現象の起こりやすさ(断面積)をまとめた光核反応データベースは科学研究のみならず実用研究においても利用される基盤データです。このように重要なデータであるにもかかわらず、1960から80年代にかけて光核反応研究をリードしたグループらが異なる施設で測定した断面積には、大きな差異がありました。この差異は、例えば電子線加速器施設などの廃止措置において、計算される放射化量に不確かさを生じさせます。その結果、放射性廃棄物の処分に大きな余裕を持たせることが必要になり、廃棄物の量が増大してしまいます。そこで国際原子力機関(IAEA)は、信頼性を高めた光核反応データを提供するため、2016年に光核反応データベース開発の研究プロジェクトを開始し、15か国が参加しました。
多様な応用の観点からデータベースには、核種やγ線エネルギーの範囲を幅広く包含していることが要請されます。しかし、実験のみではこの要請を満たすことが困難なため、核反応モデルによる計算値で補う必要があります。本研究では、原子力機構が開発している核反応モデル計算コード「CCONE」を用い、このコードに4種類ある最新の光子強度関数モデルを組み込みました(図4-2)。これらの光子強度関数を使い、多くの核種や広いエネルギー範囲に対して断面積を計算し測定値と比較することで、測定値への再現度が高い光子強度関数モデルを決定しました。
光核反応データの評価では、塩素(原子番号Z=17)からプルトニウム(Z=94)までの140核種についてCCONEコードで評価計算を行い、1〜200 MeVのγ線エネルギーに対して光吸収断面積や光中性子断面積、核分裂断面積などのデータを整備しました。特に大きな断面積を持つ巨大双極子共鳴領域(10〜20 MeV)において光中性子断面積の再現性を高めることで、実用研究での利用に対する信頼性を向上させました。
図4-3にはランタン139(139La)の光中性子断面積のうち、中性子多重度1と2の断面積に対する評価値と測定値との比較を示しています。評価値は異なる多重度を持つ断面積に対して、研究プロジェクトの実験グループによって提出された測定値をよく再現しています。本評価から光核反応で放出される中性子量は従来よりも多いことが分かりました。
国際協力で開発した「IAEA光核反応データライブラリ2019」には重水素(2H)からプルトニウム241(241Pu)までの219核種が収録されています。このうち既存の7核種を含む147核種が原子力機構から提出されており、これは本データベース開発において顕著な貢献となっています。
信頼性が高まった光核反応データベースの利用により、電子線加速器施設の廃止措置における放射性廃棄物量の低減や放射線治療における人体へのγ線照射の最適化が可能になると期待されます。
(岩本 信之)