核兵器と核テロの無い社会を実現していくためには、核兵器不拡散条約に加入した非核兵器国が、同条約を誠実に履行していくことが必要不可欠です。私たちは、上記の観点及び将来的に非核化を成功裏に導く方策を探るため、過去の非核化への事例の調査と要因の分析を行いました。
まず事例調査の対象国として、(A)非核化を実施した国、(B)核兵器を継承したが撤去した国、また(C)非核化等が追求されている国、の計8か国を選び、核開発及び非核化の歴史、核開発能力及び非核化の措置等を調査しました(表10-1)。例えば、秘密裏にウラン濃縮及び核開発を行っていたイラクは、1991年の湾岸戦争に敗北し、国際連合安全保障理事会決議(UNSCR)に基づき大量破壊兵器(WMD)の廃棄を受け入れました。同国の秘密裏の核活動の検証は、国際原子力機関(IAEA)が、国際連合大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)の協力と支援を得て実施しました。一方同じく秘密裏にウラン濃縮及び核開発を実施しようとしたリビアは、自身の核開発能力が皆無だったこともあり、2003年末にリビア経済を疲弊させていた制裁の解除を条件に、それらの廃棄を決断しました。同国からのウラン濃縮関連資機材等の搬出は、米英により迅速に実施されました。
次に私たちは上記の事例調査をベースに、国際社会が非核化を導く上で鍵となる8つの要因(非核化要因)を抽出しました。それらは①核開発の動機/継承した核兵器を維持しようとした動機、②非核化決断時点の内外情勢、③核開発の進捗度、④制裁の効果、⑤非核化の国際的枠組み、⑥非核化の方法、⑦非核化の検証方法・検証者、⑧非核化の対価です。
そして最後に、国際社会が非核化を成功裏に導く可能性のある方策を、8つの非核化要因を元に分析しました。まず対象国に非核化を決断させる上では、対象国の①核開発の動機と、②同国を取り巻く内外情勢を鑑み、対象国に非核化を決断させる⑧対価が必要であり、安全保障の提供や、特に対象国が国際社会から制裁を課されておりそれが対象国に一定の影響を及ぼしていれば、④制裁の解除が一定の役割を果たし得ます。次に非核化の実施体制及び方法について、⑤非核化の国際的枠組みには、核兵器国(NWSs)を含む国際的な合意や、核兵器の知見を有するNWSsの関与が必要であり、また対象国の③核開発の進捗度や対象国の②内外情勢を考慮して、不可逆的な⑥非核化の方法・手段を選択し、それを効果的、効率的かつ迅速に実施する必要があると考えます。そして⑦非核化の検証について、対象国が核兵器を保有している場合には核不拡散の観点からNWSsが、そうでない場合には、IAEAが、NWSsの協力を得て、対象国と締結している包括的保障措置協定や追加議定書による検認手法等を基本として検証を行うことが適切と考えます。
今後は、対象国が非核化を決断した後の⑥非核化の方法・手段と、⑦非核化の検証方法・検証者に焦点を当て、より詳細かつ具体的な措置や手順等につき研究を深めていきます。
(田崎 真樹子)