図3-2 多核子移行反応と核分裂の質量数分布
図3-3 大小核分裂片の平均質量数
核分裂は原子核に見られるユニークな現象で、原子力エネルギーに利用されています。基礎科学では、原子核の核分裂に対する安定性が超重元素の存在限界を支配し、また、天体で起こる速い元素合成過程では、反応の終盤で起こる重い原子核の核分裂が身の回りの元素組成を変えると考えられています。新たな核分裂データがもたらす核分裂の知見は、産業利用と基礎科学に大きく貢献します。
プルトニウム239(239Pu)が熱中性子を吸収すると複合核(240Pu)と呼ばれる励起状態の原子核が生成され、核分裂が起こります(図3-2)。これまで、原子核に中性子を吸収させることで核分裂を調べる実験が多く行われました。一方、この方法で調べることができる核種には限界があります。理由は、標的として利用できる高純度な同位体核種が少ないこと、また、半減期の短い核種も標的にできません。一方、私たちは、重イオン反応で生じる多核子移行反応を利用することで、多くのデータを一度に取得できることを示しました。これを応用すれば、星の中で作られる中性子数の多い原子核の核分裂など、未開拓なデータの供給が可能になります。
実験は、原子力科学研究所にあるタンデム加速器施設を用いて行いました。多核子移行反応の原理を図3-2(a)に示します。ここでは、酸素(18O)ビームをネプツニウム(237Np)に衝突させ、240Puの核分裂を観測する例を示します。18Oと237Npの間で中性子や陽子の交換が生じ、結果として窒素(15N)と240Puが生じたものです。ここで得られた240Puの核分裂片質量数分布を図3-2(b)に示します。結果は、239Puの中性子入射核分裂と同じで、中性子入射核分裂を代理できることが分かりました。同様に、交換する中性子数と陽子数に応じて様々な原子核が作られることを利用し、多種にわたるデータを一度の実験で取得しました。図3-2(b)のうち複合核236,239Np、238,239Pu、240,241Amは、中性子ビームを用いた実験では得ることができません。成功のカギは、散乱粒子(15Nなど)を事象ごとに識別する測定技術を開発したことです。
図3-2(b)に示した質量数分布から、面白い規則性が見つかりました。質量数分布のふた山構造は、重い核分裂片と軽い核分裂片の生成を意味しますが、図3-3に、それぞれの質量数の中心を示します。興味深いことに、重い方は核種によらず質量数が136〜138と一定であるのに対し、軽い方は単調に増加することが分かりました。これは、重い核分裂片に核分裂を助長する内部構造が存在し、これが出現するように原子核がちぎれていくことを示しています。
本研究は、文部科学省原子力システム研究開発事業「高速系革新炉の成立性に影響する核データの新規測定技術開発」の助成を受けました。
(西尾 勝久)