図6-2 高温ガス炉における熱流動現象の模式図
図6-3 (a)漏れ流れ解析の検証体系及び結果、(b)分子拡散モデルの検証体系及び結果
私たちは原子力エネルギーの多様な産業利用に向けて、優れた安全性を有する高温ガス炉の研究開発を行っています。高温ガス炉の特徴的な事故の一つに、原子炉内の黒鉛構造物の酸化を引き起こす空気侵入事故があります。この空気侵入事故の安全評価では、原子炉外の空気を伴い原子炉全体で生じる自然循環流れの発生時間の予測が重要です。しかし、原子炉内の流動抵抗や空気濃度の現実的な評価が困難であることから、従来は、黒鉛酸化量が最大となる自然循環流れの発生時間を仮定した保守性の高い評価を行っていました。一方、評価における保守性を適正化し、自然循環流れ発生の時間遅れを精度良く予測できれば、安全性を維持したまま高温ガス炉の経済性が大幅に向上することが期待されます。そこで、本研究では高温工学試験研究炉(HTTR)の建設に係る経験を活かし、原子炉システム解析コードRELAP5を用いた高温ガス炉の空気侵入事故時における空気侵入挙動評価手法を開発しました。
図6-2に示すように、高温ガス炉の原子炉内では、ヘリウムガスが熱膨張や中性子照射等により炉心を構成するブロック間に生じる間隙等を流れ、燃料冷却のために設けられた流路を流れない漏れ流れが生じます。燃料温度評価のため、漏れ流れをより現実的に評価するには炉内温度分布及び燃料冷却流路、隣り合うブロック間のバイパス流れ、ブロック積層面間のクロス流れの圧力損失を精度良く評価する必要があります。そこで、既往実験で得られた圧力損失評価式の導入、輻射伝熱分布の詳細化を含む解析コードの改良を行いました。また、空気侵入事故時の原子炉内空気濃度予測に重要な空気の侵入過程であり、従来手法では扱えなかった分子拡散現象を考慮するため、一次元分子拡散モデルを新たにRELAP5に導入しました。
開発した評価手法を検証するため、解析結果を実験結果や厳密解と比較しました。図6-3(a)は漏れ流れ評価の検証体系及び結果です。四つの黒鉛ブロックを積層し、燃料冷却流路、バイパス流れ及びクロス流れを模擬した実験装置での圧力分布実験結果と解析結果を比較した結果、解析結果はクロス流れによる圧力損失を再現し、実験結果と良く一致しました。図6-3(b)は分子拡散モデルの検証体系及び結果です。空気とヘリウムガスを内蔵した二つの領域を、中央部にバルブを設けた配管で接続した体系において、バルブ開放後の分子拡散による空気-ヘリウムガス混合過程の空気濃度の解析結果を理論的に導出される厳密解と比較しました。解析結果は初期空気濃度に対して、約±2%の範囲で厳密解と良く一致しました。
今後は評価手法のさらなる高度化に向けて、局所的に生じる三次元的な自然対流現象の評価モデル開発を行います。
(青木 健)