6-2 被覆燃料粒子の健全性を維持するための核設計上の方針を提示

ー燃料核移動速度を低減する理想出力分布条件の導出ー

図6-4 燃料核移動のメカニズム

図6-4 燃料核移動のメカニズム

燃焼が進むにつれて、被覆層の炭素が燃料核からの遊離酸素と反応し、高温側で気化、その後、低温側で析出・蓄積していきます。燃料核移動とは、このときに高温側にできた隙間に燃料核が押し出され移動する現象です。また、核移動速度(KMR)は、燃料コンパクト中の温度と温度勾配に依存します。

 

図6-5 核移動速度を低減する理想出力分布の例

図6-5 核移動速度を低減する理想出力分布の例

熱出力50 MWの高温ガス炉を対象に、燃料核移動を低減する理想出力分布を求めました。出力は、炉心下部で低く、炉心上部になるにつれて高くなります。

 


高温ガス炉では、二酸化ウランの燃料核を熱分解炭素と炭化ケイ素で多重に被覆した被覆燃料粒子(CFP)が用いられており、この被覆層は、燃焼に伴い発生する核分裂生成物(FP)をCFP内に保持する機能を有しています。原子炉の運転に伴う公衆被ばく量の低減の観点から、このFP保持機能を損なわないようにCFPの健全性を維持する必要があります。CFPの主要な破損機構の一つに燃料核移動が挙げられ、燃料核移動の大きさは、核移動速度(KMR)の時間に関する積分値として評価されます(図6-4)。そのため、燃料核移動の低減の観点からCFPの健全性を維持しつつ、今後さらなる燃焼度の向上を目指す上では、KMRをできる限り低減するように設計を行う必要があります。しかし、燃料核移動の低減の観点からCFPの健全性を維持するための核設計上の方針は、これまで必ずしも明確ではありませんでした。そこで、私たちは、KMRを低減する理想出力分布の条件に着目しました。このような理想出力分布の条件を明らかにすることができれば、燃料核移動を低減するという観点から、理想出力分布に近づくように燃料濃縮度の配置を最適化すること等が可能となります。

KMRを低減する理想出力分布は、KMR分布における最大値が最も小さくなる状態を実現する出力分布であると換言することができます。そこで、まず、ラグランジュ未定乗数法の考え方に基づいて、総出力を一定とする条件を拘束条件とした極値問題を解くことで、KMR分布が一定の値を取る、すなわちKMR分布が平坦になるときに燃料核移動を低減する理想出力分布を実現できることを明らかにしました。次に、KMR分布が平坦になるときの出力分布の形状を解析的に求めることは、解くべき方程式が非常に複雑となり困難であると考えられたため、出力分布を繰り返し更新することでKMRの分布を徐々に平坦化する数値計算手法を整備しました。

以上の考え方に基づき、軸方向のKMRの分布を平坦にする出力分布を求めることができました(図6-5)。これによりKMRを低減する理想出力分布を導出することが可能となり、燃料核移動の低減の観点から燃料濃縮度の配置の最適化を実施するといったCFPの健全性を維持するための核設計上の方針を立てることができるようになりました。今後、本成果を活用した燃料濃縮度の配置のさらなる最適化等により、長期燃焼が可能な実用高温ガス炉の設計研究に取り組んでいきます。

(沖田 将一朗)